あさっては北海道マラソンです。実に1万2000人もの市民ランナーが、札幌市内を駆け巡ります。このマラソン大会の申し込みは、たった2日で定員一杯になってしまったそうで、世の中はマラソンブームといえる状況になっています。
一般市民の間にマラソンが浸透した理由の一つは、ランニングあるいはジョギングが健康維持の手段として広まったことだと思います。大きくなったお腹をへこませる方法として、一番手軽で費用がかからず、確実に効果がある方法として、誰でも思いつくからです。とくに、学生時代に運動部に属していた人が多いので、その頃のことを思い出して走り始めるのかも知れません。
しかし、ランニングは体に強い負荷をかける運動であることも間違いありません。とりわけ長い距離を走るマラソンは、足の故障、脱水状態など起こす可能性があり、レース中に心臓病を起こして命を落とす人も時々いるくらい厳しい運動です。健康のために走り始めたはずなのに、体を壊してしまっては元も子もありません。
マラソンで起こる体のトラブルは、「無理」をすることが原因です。市民ランナーは本番のレースで普段より速く走ってしまいます。これは、緊張によって交感神経の活動が高まり、副腎からアドレナリンというホルモンが出て、普段よりも効率よく筋肉を使えるようになるからです。
しかし、この状態は体に無理をかけている状態に他なりません。さらに興奮状態にあるので、体の不調を感じにくくなっていると考えられます。結果として、足を痛めたり、脱水状態になって意識もうろうとなったりするまで、体の不調に気づかないことになります。
市民ランナーは、別に新記録やメダルのために走っているわけではないのですから、無理をすることはないのです。たとえ本番のレースでも、リラックスして走ることが大事ですね。
ゆっくりと走ることを楽しもうという、「ファンラン」という考え方が広まっていますが、いいことではないでしょうか。そして、チョットでも不調を感じたら、躊躇なくレースを中断してください。また、次の機会に走ればいいのですから。
「リラックスする」「無理しない」と心に唱えて、私も北海道マラソンを走ります。どうなりますことやら…。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)