苦味はおとなの味です。子どもは基本的に苦いものが苦手です。コーヒーやサンマのはらわたなどを好んで口にする子どもはいません。なぜなら、もともと苦味は食べてはいけないもの、すなわち毒物の存在を示す危険信号であったと考えられるからです。だから薬は基本的に苦いのです。
もともと薬は、例えばトリカブトやドクダミなど毒性を持つ植物から作られているからです。という訳で、子どもは本能的に苦味を嫌うのです。ところが、おとなになるとこの苦味が、とても大事になりますね。
コーヒーやお茶はもちろん、なんといってもビール!苦くないビールなんてのみたくありません。サンマのはらわたや、チョット苦味のある山菜などは、酒の肴に最高であります。どうやら人は、人生経験を重ねることで、苦味を美味と感じるようになるようです。だから苦味はおとなの味、人生の重みをかみしめる味なのです。
ところで、苦味は胃腸にとっては思わぬ効用があります。それは、苦味を感じると胃腸の運動が活発化するということです。そこで、胃腸の調子を整えて食欲不振に効果がある健胃生薬には苦味剤とよばれる苦味の成分が必ず配合されます。
苦味剤が効果を発揮するためには、くすりを口に含んで「苦い!」と感じなければなりません。苦味を我慢して少し口に貯めてから、のみ込むと効果抜群であります。こう考えると、食前にビールを一杯飲むことや、食後にブラックコーヒーをすするのは、案外理にかなっていることが分かります。
かつての研究で、苦味の度合いを測る標準物質としてキニーネという薬物が使われていました。キニーネはマラリヤの特効薬として有名で、猛烈に苦いのです。キニーネはキナという植物の皮から抽出された薬物ですが、これを水に溶かして健康によい水として売り出されたのがトニックウォーターです。
トニックウォーターのカクテルと言えば、なんと言ってもジントニック!1次会で食べ過ぎたあと、2次会のスタートにジントニックはいかがでしょうか?ほのかに苦く飲み口さっぱりで、お腹もじきに楽になりますよ。出来れば居酒屋で出される出来合いのじゃなくて、腕のいいバーテンダーのいる、チョット小粋なバーなんてどうです?
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)