コロナ禍 改革の契機に
昆布だし、ラーメンたれを中心に調味料・食品を製造販売するアイビック食品(本社・札幌)は、道内食品業界で耳目を集める成長企業だ。ここ数年で工場増設、総菜会社買収、中国拠点設立など順調に業容を広げてきた同社は、突然の新型コロナウイルスショックにどう対応しているのか。副社長から今月昇格したばかりの牧野克彦社長(42)に聞いた。
―コロナ問題の初期から対策を打っている。
食品メーカーにとってウイルス流行のような衛生問題は重大だ。当社は8年前に定めたBCP(事業継続計画)でインフルエンザを想定し、コロナ対策に近い予防策を講じていた。今回はまだ国内でコロナが深刻視されていなかった1月下旬に、会社からの指示事項などをまとめた対応マニュアルを作り、その後も改訂版を出し続けている。最新版は6月3日の第4版。異業種からも参考にしたいと頼まれ、何社かに渡している。
―作業場の衛生管理を徹底しようと、気圧管理の装置を入れた。
製品のパック作業など、細菌・ウイルスの侵入を絶対に許してはならない現場に導入した。空調で部屋の気圧を少し上げることで、室外から菌を含むかもしれない空気が入らないようにする。数日前に設置したばかりだ。私が社内で言い出した時は「医療機関の感染対策病室のようなことを中小食品メーカーがやるのか」との声もあったが、中期的に見て必要なことには投資する。
―工場の入り口に、顔認証システムによる自動ドアも付けた。
食の安全確保、衛生、セキュリティーから、許可された人以外は入れないようにしたい。IDカード認証が普及しているが、カード自体が異物で汚染リスクがある。パスワードや指紋認証はパネルに接触するためやはり危険があり、非接触の顔認証が最適だった。当社の場合は本人確認と同時にサーモグラフィーで体温を検知していて、高熱があればドアが開かない。
―理想的だが、導入経費もかさんだのでは。
何も考えずに専門業者に頼めば高くつくのは当然だ。当社のような中小企業は、本当に必要な機能は何か、自社でどこまでできるかなどを考え抜いて、支出を最小限まで削らなければならない。助成金もできる限り活用する。そうやって、気圧管理も顔認証も相場の何分の一かで実現している。
衛生対策強化は、単なるコロナ対応ではない。食品メーカーとしての当社のレベルを上げるために必要なことで、コロナは一つのきっかけだ。
―会社は、釣り具卸で知られるアイビックグループの食品部門を担う。近年の単体業績は。
2009年11月期の年間売上高は約2億円だったが、19年11月期は20億円を超え、過去最高を更新した。今期は決算期を5月末に変えた上にコロナ問題があって特殊な数字になるが、グループ100周年の22年にはグループ全体で100億円、当社単体では40億円到達を目指している。
―牧野社長は、食品の前社長でもある牧野利春グループ代表の次男。コロナショックの中での社長就任となった。
4年前に代表取締役副社長になり、経営の相当部分を任せられていたため、極端に立場が変わったとは思わない。変化と言えば、これまで数多く参加してきた経営者団体の会合がコロナで中止となり、その分自社業務に時間をかけて向き合っていることだろう。私は各担当者に次々とリクエストを出し、仕事の速さも求める。社員は大変かもしれないが、会社をもっとよくする好機と捉えて全員で取り組みたい。
(聞き手・吉村 慎司)
牧野克彦(まきの・かつひこ)1977年札幌市出身。2000年大学卒、同4月に東芝エルイーマーケティング入社。08年にアイビック食品に入社し、10年取締役社長室長兼営業部長。専務、副社長を経て6月1日から現職。
(北海道建設新聞2020年6月11日付3面より)