札幌に拠点、土木向け開発
AI音声認識技術で国内大手の上場企業、アドバンスト・メディア(本社・東京)が今月、札幌に営業所を開設した。創業は音声認識が未来の技術と見られていた1990年代。今では病院・コールセンター向けの業務支援システム、企業・自治体向けの議事録作成支援サービスなどを手掛け、各分野で高いシェアを持つ。立松克己常務取締役執行役員によれば、本道でまず狙うのは建設業の顧客開拓だという。
―音声認識は建設業にどう役立つのか。
建設現場では施工状況を確認しながら紙にメモを書く、タッチパネルで文字を入力するなどの場面が数多くある。こうした記入作業を、端末に話しかけるだけで済むようにするのがわれわれの技術だ。時間が短縮でき、手がふさがっていても問題ない。単なるテキスト化ではなく、AIに単語を理解させ、例えば「窓下のクロスに汚れがある」と話せば「窓下」が位置、「クロスに汚れ」が状態、などとデータを分類することもできる。
―実績は。
建設業向けのサービス名は「AmiVoiceスーパーインスペクションプラットフォーム」といい、建築物の仕上げ検査支援アプリが主力だ。発売初年度の2015年だけで約800ライセンスが売れ、現在年間約8000ライセンスが稼働している。また7月には配筋写真管理アプリも発売する。現場で撮影すると、AIが設計図書内の必要箇所を判別して適切に加工し、その後の処理も半自動で実行する。音声認識で培った技術を画像に応用したものだ。
―仕上げ検査アプリは道内でも使われているか。
契約いただいている社もあるがまだ少ない。ユーザーの多くは東京や大阪の企業で、われわれは今まさに全国展開に力を入れている。地方の大都市では、IT導入を様子見していた企業が本格的な検討に移り始めている。18年に福岡、20年に名古屋の営業所を開き、今回が北日本で最初の拠点となる。札幌の常駐社員は1人だが、私も頻繁に出張してくるつもりだ。
―本道についてどう捉えているか。
当社サービスにとっての有望なマーケットというのが一つ。それから採用面で、北海道の優秀な働き手に興味を持ってもらえるように知名度を高めたい。加えて、土木分野の事業開拓を意識している。本州に比べ北海道は土木の規模が大きい。地場の建設会社と情報交換させてもらい、われわれの技術を生かした土木向けサービスの開発にも挑戦したい。仕上げ検査アプリは名古屋の建設会社と一緒に開発した。道内で新たなパートナーができればありがたい。
―AI音声認識は、どの社でも精度が上がってきたように見える。
10年ごろからディープラーニングといわれるAIの学習手法が音声認識に実装され、精度が飛躍的に上がった。当社の強みは、25年以上に渡って蓄積してきたビジネスシーンでの利用データ、それから音声認識の活用に関する豊富な経験値だ。例えば病院の放射線科や金融機関のコールセンターなど、さまざまな専門領域に特化したAI音声認識エンジンを開発し、何種類も保有している。
―人間の役割がどんどん小さくなりそうだ。
そうではないと思う。先ほどの仕上げ検査なら、AI音声認識が補助することで作業員のスピードが格段に上がる。人の能力をAIが拡張している構図だ。飛行機でいえば副操縦士のようなもので、人はAIによってますます活躍できるようになる。AIが人を「スーパーヒューマン」にする。当社はそんな未来を実現しようとしている。(聞き手・吉村慎司)
立松克己(たてまつ・かつみ)1964年11月愛知県岡崎市出身。2005年アドバンスト・メディア入社。06年取締役就任。13年から音声認識を活用した不動産・建設業界向け各種業務効率化アプリの事業を手掛ける。