全てのニーズはマーケットに
北海道地図(本社・旭川)は、位置情報と仮想空間を組み合わせた新事業を展開している。3次元モデルを用いた博物館展示、高精度の遠隔会議・面会システムなど、DXに地図作成で積み上げたノウハウを生かす。小林毅一社長は「全てのニーズはマーケットにある」と顧客の求めるサービスの「見える化」が重要と説く。
―会社の主要事業は。
国土地理院など官公庁の地図製作を主軸にしてきた。1989年に世界初となるカーナビの地図データの作成に参画し、地図のデジタル化を早期から始めている。
仙台や上野といった駅に設置された液晶ナビのシステム開発も手掛けている。実際の空間と地図の位置情報を連動させ、デジタルで表現する技術開発に努めている。
国立アイヌ民族博物館(白老)では、館内の3Dモデルをウェブ上で観覧できるシステムを作成した。展示品を見るだけでなく、詳細な説明を付加したり、収蔵品の置き場所をシミュレーションする展示設計にも活用できる。
―地図デジタル化の意義を。
カーナビの普及、コロナ禍による移動制限で紙の道路地図や観光地図の需要は激減し、地図を取り巻く環境は激変している。しかし、地図の本質は位置情報にある。媒体が変化しても「見えないものをどう見せるか」という課題は変わらない。
地下に埋設された管路の図面もVR技術を活用すれば可視化が可能だ。開発しているスマートグラスは、遠隔で現場の映像を映しながら画面上に映し出される3Dオブジェクトに触れられるため、建設技能の伝達、安全管理にも活用できる。
サーモセンサーを搭載したドローンで温度の変化を検出する技術、AIの映像分析でインフラの劣化部を自動検出する技術も実装に向け、検証を進めている。建設業界が保有するデータは有効に活用できるはずだ。
―どのようにアイデアを生み出すのか。
システムでも地図でも、常にクライアントの要望が第一だ。防災マップや博物館の展示設計などさまざまな仕事を受けているが、「何がしたいのか」を地域の人たちや学術機関から聞き取って具体化するのが重要だ。
ソニーと共同開発した遠隔会議システムは大型の高精細モニターで臨場感あふれる映像・音声を伝えられる。手元を写せる卓上モニターも併置し、手芸や料理を教えることも可能だ。コロナ禍で面会が困難となった社会福祉施設、日本語学校などから引き合いがある。
6月からはモーションキャプチャーのスタジオレンタルを開始した。カメラで撮影した動きをVR空間上のアバターが指先まで再現する。ダンスなどの動画配信だけでなく、アイヌ舞踊の保存などにも活用できると考えている。
地元学校の社会教育を受け入れるうち、不登校児にアバターで出席してもらうというアイデアも生まれた。全てのニーズはマーケットにある。相談を受けながらニーズを形にするのがわれわれの仕事だ。
従来の地図にも鳥瞰図(ちょうかんず)やプロジェクションマッピングなど〝こうやったら便利だろう、面白いだろう〟という工夫を取り入れている。地図の仕事はなくならない。積み上げてきた技術や知見をさまざまなものと組み合わせ、新たな価値を生み出したい。
(聞き手・松藤岳)