消臭作用や造形に着目
浦幌木炭(本社・浦幌)の背古円社長は、木炭の消臭作用や造形に着目したインテリア販売を4月から本格始動し、燃料にとどまらない用途を提案する。「地元の林業や炭窯を絶やしたくない」思いで町内唯一の炭焼きを継承し、約半年でスタートを切った新事業。木炭が持つ魅力の認知拡大に取り組んでいる。
十勝東部の浦幌町は、豊かな森林資源を背景に木材加工が盛ん。この一端を担う木炭製造は100年以上の歴史がある。エネルギー転換や安価な国外炭の影響で浦幌木炭のみとなったが、地元産ナラを原料とする黒炭は火持ちの良さで全国の焼き鳥店などから定評だという。
しかし、同社を1人で切り盛りしていた佐藤行雄さんが病に倒れ、町内在住の背古さんが事業を継承。21年9月に新生・浦幌木炭を設立した。背古さんは父が経営する木材加工業のエムケイ(本社・浦幌)で勤務し、幼少時から木が身近な存在。「木の力を生活に届けたい」と思い続けていた。
インテリアとしての着想を得たのは、引き継ぎが決まってから訪れた大樹町内のメムアースホテル。馬と暮らす家「バーンハウス」で、壁には消臭のために敷き詰められた無数の木炭があった。やがて目に留まったのは木炭の造形。「自然のデザインで、一つとして同じものはない。ただ燃料になるのはもったいない」と感じた。
浦幌神社の宮司である夫・宗敬さんの助言も後押しした。神事で町内を戸別訪問した宗敬さんから「木炭を発泡スチロール製トレーに載せ、玄関に置いている家庭を多く見かける」と聞き、「手を加えておしゃれにしたら喜んでもらえるのでは」。当時、地域おこし協力隊員だった鹿戸麻衣子さんの協力を得ながら、木炭の置物を考案した。
炭本来の姿を生かした素朴なタイプに加え、細い破片を生け花のように鉢に立ててリボンや水引で飾り付けたものもある。「外へ働きに出られないお母さん方が得意なことを組み合わせ、内職のように作ることができれば」との狙いもある。
山の循環などを意味するブランド「M Loop」として1月から浦幌神社の雑貨展に出品し、4月から本格販売する。3月末で協力隊を卒業した鹿戸さんは商品企画・発信担当だ。背古社長は「燃料として需要が減っても消臭などで注目されれば」と話し、十勝を代表する商品を目指す。
さらなる構想は、炭窯が道の駅に隣接する立地を生かした観光誘客。町内の農林漁業を組み合わせ「炭焼きを体験した後、地元の野菜や魚を焼いたり、豚丼を作ったりといろいろ。画用にもなることから絵を描くワークショップもどうか」とアイデアは尽きない。
町内の木材加工業は1986年の8軒をピークに半減した。「伐採だけではなく、加工できる場所がないと林業の町と胸を張って言えない」とし、「炭焼きをなくすのも一つの判断だが、もう少し頑張れるかなと思った。木炭が浦幌を知ってもらうきっかけになればうれしい」と願いを込める。