大工の職人技にも光当てる
アップサイクルホッカイドウ(本社・札幌)は、建築の廃材や端材でインテリアやアウトドアグッズを製作し、廃棄物に新たな価値を与える「アップサイクル」を広めている。ごみと扱われていたものを素材に変える発想の転換で建築業界の意識が変わりつつある。吉田友花社長は、かんながけで生じる木くずで壁飾りを仕立て、大工の職人技にも光を当てる。
住宅工務店のハウジング光陽(本社・札幌)が2019年春に始めたプロジェクト「cozaiku」が前身。デザイナーや大工が集まり、自社の端材、廃材がもったいないため有効活用しようと始まった。同社が「似たような考えの人ばかりでは新しいものが生まれない」と呼び入れたのが吉田社長だった。前職は10年ほど勤めた医療事務。ハウジング光陽は親類が営む会社だが自身に建築の知識は全くない。それでも新しい境地に挑戦しようと同社へ入社した。
cozaikuで考案した商品の一つは、切り込みが入った細い丸太でたき火をするスウェーデントーチを角材で作った「エゾトーチ」。燃えやすい切り込みの入れ方を模索し、商品化した。角材は規格化されていて形をそろえやすい。キャンプブームでエゾトーチを求める声が増えている。
しかし売り出し方に難儀した。「エコ」「リメイク」「Re○○」と案を挙げても、うまく差別化できる表現が見つからない。そんな中でcozaikuに声を掛けたのが、アップサイクルをPRするアップサイクルジャパン(本社・神奈川県茅ケ崎市)。「それだ」と、吉田社長は自らの活動にマッチする感覚がした。21年8月には活動を社外へ広げようと独立し、アップサイクルホッカイドウとして法人化した。
アップサイクルは建材以外にも広がる。破損や乗り換えで使われなくなったスケートボードを接着剤で何重にも貼り合わせ、層が生み出す模様を生かした小物を作り始めた。素材本来の姿を生かすのも同社のポリシー。こうした作業を得意とするのが、ハウジング光陽でトラック運転手を務める加藤幸太さんだ。
現場で廃材をもらって工作するのが趣味の加藤さんだが、ごみを使っているという後ろめたさで当初は表向きな活動に抵抗があった。「廃材を使うのは恥ずかしいと思っていたが、時代が変わってきた」。札幌のスケートボード大会から廃ボードのトロフィーを頼まれ、ドライバー業務の合間で製作に励む。
cozaiku発足後初めて形にしたのは、かんなくずで作ったリースだった。吉田社長は大工歴54年の棟梁である斉藤隆さんのかんながけをする姿を見て「かんなくずを生かせないか」。造花にする事例を知ってリース作りを学んだ。触れるとカサカサッと独特な音が鳴り、ほのかに漂う木の香り。イベントで紹介すると、かんなを知らない若い世代に興味を引いてもらえるようになった。
斉藤さんは「私たちの世代はただの〝くず〟だと見ていて、活用なんて考えられなかった。かんなくずを見直してくれてうれしい」と話す。機械化でかんな技能の伝承が難しい中、吉田社長は「ものづくりに関わる人たちをフィーチャーしたい」と熱を込めた。
他社からも端材や廃材を提供してもらえるようになった。吉田社長は「端材にも価値があると周知し、業界の意識を変えたい。ゆくゆくは端材を使い切るのが目標。北海道が一丸となって取り組めば可能性が広がる」と話し、アップサイクルの周知に力を注ぐ。