アナログとデジタル、どちらも
ティーズ・クリップ(本社・札幌)は、ビルや倉庫の外壁に大きな絵を描いたり、スーパー店舗内の装飾などを手掛ける商業芸術会社。最近はリアルを追求したマグロ彫刻がスーパーや飲食店の関係者の目に留まり、ホームページを通して着実に販売数を伸ばしている。アナログとデジタルの両方に強みがあり、今後はSNSなどを媒体にした企業のイメージキャラクター作りや4コマ漫画などを手掛けたい意向だ。
社長の田部功一さんは1958年5月、三笠生まれ。留萌管内の高校を卒業後、武蔵野美大を受験するものの倍率50倍に泣き、浪人生活との二者択一の結果、札幌市内の美術専門学校に進んだ。
物心の付いた頃から絵を描くことが好きで、戦艦大和の大砲を紙いっぱいに描いたりして過ごした。中学、高校でも美術好きで「25歳までに画家として売れなかったら諦めよう」と志を持っていた。
専門学校の授業だけでは飽き足らず、当時の狸小路6丁目にあった吉井画廊に出向き、石膏デッサンで技術の研さんに努めた。そこで知り合った仲間との日常は、ヤングジャンプの連載漫画「北の土竜(もぐら)」で描かれたほどだ。
卒業後は帯広の看板会社に就職し、最初はスーパーのPOPを朝から晩まで手書きする毎日だった。激務がたたり右腕を負傷。画家としての大成に見切りを付けた26歳のとき、絵描き仲間5人と「株式会社ティーズ・クリップ」を設立した。
社名はテクニカルデザインのほか、クリエーティブ、レタリング、イラストレーション、プランニング、ペインター、プリント、POPと自社の事業領域を表す。田部さんの相棒で一昨年まで専務を務めた故衣川義清さんが命名した。
設立当初は看板やシルクスクリーン印刷の仕事が中心で、潤沢だった公共事業予算を背景に博物館や資料館のジオラマ、建築物や橋梁の模型、地下歩道やダムの壁画など事欠かなかった。
バブル後は業況が一変した。さらにパソコンやインターネットの技術が普及し、デジタルのイラストやフォントが主流に。IT革命の荒波に対して手書きが強みのティーズ・クリップも軌道修正を強いられた。
しかし、Mac導入などのデジタル化は店舗内の装飾をインクジェット出力と手書きの両方から選んでもらうなど顧客の選択の幅を広げる形で結果的に奏功した。デジタルとアナログのどちらも手掛けられる美術会社は年月の経過と共に少なくなり、いつしかティーズ・クリップの特長になった。
道内の中堅スーパーから依頼を受けて作ったサケ彫刻は、IT化に並ぶ会社の変革で原動力になった。自社のホームページで紹介したところ、大阪のスーパーが興味を示し「精巧なマグロ彫刻を作ってほしい」と大量発注を受けた。うろこ1枚、歯1本ずつ、手間暇を惜しまず半年ほど掛けて丁寧に仕上げる製作姿勢が支持された。
口コミで年20個ほどの受注があり、会社の屋台骨になりつつある。最近は企画・制作担当の橘美和子さんが手掛けるグラフィックデザインの制作にも期待が高まる。「建設会社のイメージキャラクターや仕事を紹介する4コマ漫画なども作りたい」と橘さん。
田部さんは「8年作り続けているとサケやマグロ好きになり、高じて山梨県から富士の介(キングサーモンとニジマスの交配種)の注文を受けた。オーダーメードは手離れの悪い非効率な仕事だけど、これからもアナログとデジタル両方の強みを生かして頑張りたい」と話す。