本間純子 いつもの暮らし便

 アリエルプラン・インテリア設計室の本間純子代表によるコラム。

 本間さんは札幌を拠点に活動するインテリアコーディネーターで、カラーユニバーサルデザインに造詣の深い人物。インテリアの域にとどまらず、建物の外装や街並みなど幅広く取り上げます。(北海道建設新聞本紙3面で、毎月第2木曜日に掲載しています)

本間純子 いつもの暮らし便(26)暖炉とマントルピース

2022年11月11日 17時39分

 エリザベス女王最後の公務は、静養中のバルモラル城で、トラス氏を首相に任命することでした。握手する二人の背後には炎が美しい立派な暖炉と、たき口の周囲を装飾するマントルピースが控えていました。同室を広く撮影した画像が、インターネットで公開されています。暖炉を囲む、美しい英国のインテリアに、しばし見入ってしまいました。

 暖炉の原型は床に作られた炉で、イメージとしてはいろりに近く、煙は屋根のルーバーから逃していました。ヨーロッパでは、耐火性の強いれんがや石で外壁を作ったので、炉が外壁側に移動し、さらに煙を導く煙突が付けられ、現在の暖炉の形になりました。

 暖炉は高温の排熱をそのまま煙突から出してしまうため、暖房効率が高くありません。そこで、折り曲げた煙突状の煙道をれんがなどで作り、輻射熱を得る方法が考え出されました。ロシアのペチカ、朝鮮のオンドルなどです。暖まるまでに時間がかかり、温度調節のしにくさはありますが、極寒の地の頼れる暖房装置でした。今ではセントラルヒーティングが普及し、スイッチひとつで暖かな空間を得ることができます。それでも、なぜか私たちは、火が見える暖炉に引きつけられます。

 不規則に揺らぐ炎の色や形、暖かさ、燃える音や爆(は)ぜる音、匂い等々、まきが生み出す火は、なぜか心地よく魅力的です。火は調理、暖房、明かりを賄い、生活に欠かせない道具でした。遠いご先祖様の時代から、ずっと火加減を見続けてきたので、離れがたいものがあるのかもしれません。

 火は扱いを間違えると危険ですが、正しく丁寧に扱うことで、暮らしを支えてくれます。今、日常生活で木を燃やすことは、とても少なくなりました。ソロキャンプやたき火が人気ですが、火を通して、私たちの大切な感覚を、呼び戻そうとしているように思えます。

 暖炉の火だけでなく、装飾するマントルピースにも引きつけられます。石、タイル、木などでデザインされ、特に上部の棚のディスプレーは、家人の趣味やセンスの見せ所です。フォトフレーム、置物、旅の思い出の何か―等々。応接空間に設けられる暖炉とマントルピースは、日本の床の間に相当するといわれていますが、確かに、掛け軸や生花などをしつらえるのに似ています。

 和室そのものが減少傾向にあるので、当然、床の間も同様ですが、マントルピースの人気は健在です。本体デザインもしつらえ方も自由度が高いので、自分らしく飾れる楽しさがあるようです。そこに、本物のまきが燃えているように見える電気式暖炉をセットすると、高層階の集合住宅でも暖炉のある暮らしが実現します。

 火を囲むと食事はおいしく、会話も弾み、気分も上がるのは誰もが感じていること。国のトップ同士が暖炉を挟んで、あいさつを交わす映像を時折目にします。「暖炉に火が入っていたら会談はうまく進むのでは?」と期待してしまうのは私だけでしょうか。暖炉とマントルピースには、コミュニケーションを円滑に進める仕掛けが潜んでいそうです。この技、上手に活用したいものです。


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