本間純子 いつもの暮らし便

 アリエルプラン・インテリア設計室の本間純子代表によるコラム。

 本間さんは札幌を拠点に活動するインテリアコーディネーターで、カラーユニバーサルデザインに造詣の深い人物。インテリアの域にとどまらず、建物の外装や街並みなど幅広く取り上げます。(北海道建設新聞本紙3面で、毎月第2木曜日に掲載しています)

本間純子 いつもの暮らし便(27)クリーマーの注ぎ口

2022年12月12日 11時01分

 インテリアコーディネーター業務の中に、通称「モデル作り」と呼ばれる作業があります。戸建てやマンションを販売するためのモデルハウスやモデルルームを作る仕事です。この〝住まいの見本〟は住むには不向きですが、建築技術の情報と住まい方のアイデアが満載です。

 モデル作りには、内装仕上げ材、照明器具、ウインドートリートメント、造作家具のデザイン、置き家具などの選定業務のほかに、デコレーションの業務があります。額絵、置物、食器、調理用品、タオル、スリッパ、趣味の小物、書籍、文房具類、ハンガー、おしゃれな収納用品等々をセットする作業で、ちょっとした引っ越し並みの数量があります。「飾り付け」とも呼ばれますが、飾るというより住む準備をしている感覚に近いです。

 これらの商品は札幌市内の小売店で調達していたので、買い物にかかる時間と運動量は、かなりのものでした。ハードワークだったなぁと思います。コーディネーターさんによっては、カタログやネットで購入する方もいると聞いていますが、私は実際に手にしたことのない商品を置くことに抵抗がありました。

 例えば、食事の時、パン皿はテーブルに置いたままですが、マグカップは必ず手で持ち上げます。重すぎないか、ハンドルは持ちやすいか、熱が伝わりやすいか―。見た目の美しさも重要ですが、使い勝手の良さも留意して一点一点選びます。モデルハウスの小物類は、そこでは本来の使われ方をしませんが、いずれどなたかの家に引き取られて第二の人生を送ります。セカンドライフでは、マグカップ本来の力を発揮して仕事をしてほしいのです。

 普段使いの品ほど、サイズ、重量、手触り、使用感を大事にしたい。以前、黒檀の箸を使っていましたが、想像以上に重く、食事の途中で右手が疲れ、とうとう引退してもらうことになりました。黒檀の重さを十分理解して購入したつもりだったのですが、箸の重さで手が疲労するのは想定外でした。毎日使う道具ほど吟味して選ぶ。引退した黒檀の箸は、今でもそう言ってるようです。

 白いクリーマーは、本来のミルク用ではなく、湯冷まし用として愛用していました。柳宗理デザインの丸いシンプルなフォルムがお気に入りでしたが、使い始めてからは、注ぎ口に魅了されてしまいました。注ぎ口の凹みが、微妙に手前に寄っているのです。持ち手が3時の位置とすると、注ぎ口は9時より少し手前にあり、お湯を急須に入れる時、手首に負担がかからない角度で傾けることができます。

 柳宗理は、図面を引かないデザイナーだったそうで、この注ぎ口を石こうを削ってデザインしたことがエッセイに書かれています。良いデザインを生み出すとはどういうことか、白いクリーマーが無言で語っています。

 実は、壊れてしまい、購入しようとずいぶん探しましたが、しばらく生産が止まっていたようで、最近やっと購入可能になったことを知りました。ネット購入は好みませんが、「購入する」ボタンをポチッとすることにしました。再会が楽しみです。


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