働き盛りの男性のお腹が次第に出てきて、すっかり恰幅(かっぷく)が良くなったのを指して、「あれはビール腹だ!」と揶揄(やゆ)することがあります。夜ごとたくさんビールを飲んでいたから太ったのだというのです。確かに、夜ごとのお酒では、ご飯をたくさん食べることはないでしょうから、本人はたくさん食べたつもりはなく、それなのに太ってしまうので、ビールが犯人だと思ってしまうのでしょう。
しかし、最近の研究で、ビールだけではどんなに飲んでも太らないことが明らかになりました。そもそも、ビールは他のお酒と比べても、カロリーが格段に高い訳ではありません。さらにビンや缶に記載されているカロリー数は、ビールに含まれるアルコールも勘定に入っているのですが、アルコールは体内ではエネルギー源にならないという説が有力なので、ビールだけで太ることは不可能なのです。
ビールをたくさん飲んでいる人に肥満が多い理由は、ビールは効果的な食欲増進剤だということにありそうです。まず、ビールは発泡します。この泡の成分は二酸化炭素なのですが、これは胃や腸の粘膜を刺激し血行を盛んにして、消化運動や消化液分泌を促進するはたらきがあります。
つまり、空腹に「とりあえずビール」を流し込むと、がぜん食欲が進むのです。そして泡が作り出す清涼感は、口の中をさわやかにして、脂分を洗い流す効果があるので、脂っぽい食べ物とよく合い、食べ飽きしにくくする効果があります。なので、ジンギスカンにはビールなのです。こうしてビールをお供に脂っこいものをたくさん食べることが夜ごと続くのです。ご飯を食べなくても、結果は明白ですね。
私の周りに一晩でビールをジョッキで7~8杯軽く飲むという酒豪がいますが、この人は運動しているせいもあって、極めてスリムな体型です。よく観察すると、本当に大量のビールを飲むのですが、おつまみは一通りしか手をつけていません。「お腹が一杯になるとビールがのめなくなるから!」というのですからすごいものです。
つまり、ビール腹はメタボ体型になった食べ過ぎ男性の言い訳に使われているのです。たくさん食べるためにビールを流し込むのは、ビールに失礼です。ビールの味もゆっくり味わえば、自然と食べる量も減るのではないでしょうかね?
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)