北海道と言えばジンギスカン。ジンギスカンブームで全国的にも有名になった名物料理ですが、道産子にとっては「ソウルフード」。花見に、海水浴に、何かにつけて、ジンギスカンを食べるのはあたりまえ。においも気にせずに、居間の食卓で盛大にジンギスカンを楽しむご家庭も多いと思います。
私が子どもだった頃には、マトンが普通だったので、においは今の比ではありませんでしたが、それでも、肉がたらふく食べられるので、ジンギスカンは楽しいメニューでした。
においがきつく、肉をたくさん食べるのだから、健康とはほど遠いイメージなのに、ジンギスカンはヘルシーメニューとして有名です。理由は、牛肉や豚肉に比べて、カルニチンが豊富に含まれていることです。
カルニチンは、元来、私たちの身体に当たり前に存在する物質で、細胞でエネルギーを作り出す小器官であるミトコンドリアで、脂肪からエネルギーを取り出すときに使われます。なので、カルニチンを摂取すれば、脂肪燃焼が進んで太らないはずだから、ヘルシーだという論法です。
でも、普段の食事をすればカルニチンが不足することはないので、ジンギスカンを食べればやせてくるというものではなく、太りにくいと言う程度のことです。
それよりも、羊肉の脂肪が固まりやすい性質を持っていることが大事な様です。ジンギスカンのたれに脂肪が白く固まっているのをみると思います。羊肉の脂肪の融点は摂氏44から49度ぐらいと、摂氏37度の人の体温より高いのです。
ですから、お腹に収まった羊肉の脂肪は固まっていると考えられます。とすれば、羊肉の脂肪は消化吸収がしにくいと推測されます。実際、ジンギスカンを食べると、どうしてもお腹が緩くなる人が多いのですが、消化吸収されなかった脂肪分が便通を促す効果と思われるのです。
同じ量のお肉を食べたとして、牛肉や豚肉に比べて脂肪の吸収が少ないとすれば、羊肉は太りにくいという理屈は正当かも知れません。
ただ、ジンギスカンはタレの味が濃いので、ごはんや飲み物がどうしても欲しくなる食べ物です。ジンギスカンはヘルシーでも、ご飯たくさん、ビールを何杯も、と言うのでは、元も子もありませんから、ほどほどに!
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)