人の体の60%は水分でできています。この水分は真水ではなく、電解質が溶け込んでいます。つまり、人の体を作るには電解質が必要不可欠であることが分かります。
とりわけ、体の中の主要な水分の一つである血液にはナトリウムと塩素という2種類の電解質が多く含まれています。塩素とナトリウムがくっついて結晶になったものが塩化ナトリウムつまり食塩なのですから、人の体にとって塩分はとても大事なものであることが分かります。
事実、塩分不足になると、頭痛、めまい、脱力などの症状があらわれ、さらには昏睡に陥り生命の危険にさらされます。塩分はおしっこや汗などに入って、常に失われるので、食事などにより、常に補給されなければなりません。これから夏に向かって、暑さで汗をたくさんかくことになるので、塩分補給は必要です。
かといって、たくさん取ればいいというものではないことは、皆さんもご存じだと思います。塩分を過剰に摂取すると、血液などの塩分濃度が高くなるので、これを元に戻すために、水分がほしくなります。つまりのどが渇きます。そして水を飲み、おしっこの量が減り、血液の量が増えることになります。
血液の量が増えると血管を押し広げ、血圧が上がります。高血圧症になるのです。また過剰な塩分を処理しようとして腎臓に負担がかかるので、腎臓病になる恐れもあります。
また、高血圧や血液量の増加が心臓に負担をかけて心不全や不整脈を引き起こすことも指摘されています。さらに高血圧は動脈硬化を進行させ、心筋梗塞や脳卒中の危険性も高まります。やはり塩分の取りすぎは避けるべきなのです。
塩分の取りすぎは、病気だけでなく、味覚に大きな影響を及ぼすことが分かっています。人は塩味を感じるとき、その基準は体の水分中の塩分量であるといわれるからです。塩分を取りすぎると、体の塩分量が増えて、それが基準になって塩味を感じますから、食べ物により多くの塩分が含まれていないと塩味を感じづらくなり、おいしく感じません。
結局、より濃い味付けでなければ満足できなくなり、結果的にさらに多くの塩分を取ってしまうことになります。濃い味付けは、食べ物の本来のうまさを消してしまうことが多く、もったいない話だと思います。料理を楽しむコツは、薄味になれることです。これが健康にもつながるのですから、一石二鳥でしょう!
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)