今年の冬はインフルエンザが大流行しました。普段は元気いっぱいのビジネスマンも、多数の方がインフルエンザの高熱で寝込んでしまいました。夜の盛り場では、「毎日、アルコール消毒しているあいつが倒れるなんてねぇ…」とうわさが飛び交います。インフルエンザはのどにウイルスがつくために起こるので、お酒がのどを通過するときに消毒できるという考えみたいです。でも、お酒でアルコール消毒は全くできないのです。
消毒に最適なアルコールの濃度は70%で、60%以下になると効力が著しく落ちて、ほぼ意味がなくなることが分かっています。さらに、アルコール消毒液は、タンパク質に触れるとさらに効力が落ちるのです。タンパク質は人の体を作る成分そのものですから、消毒液が体に触れると、瞬間は効力があっても、みるみる効力が落ちていくのです。
とすれば、ウイスキーのストレートでも40%程度しかないお酒を、ゴクリと飲むわずかな時間では、消毒にはならないということです。昔、時代劇で手傷を負って、それを処置するために、焼酎を口に含んで「ぷーっ」と吹きかける場面がよくありましたが、医学的には気休めということになります。
でも、お酒に漬けた食べ物が全く腐らないことも事実です。だから低い濃度のアルコールが細菌やカビなどの繁殖を抑える力があることは間違いがありません。この辺が誤解を招く原因かもしれません。
たとえば、お酒は酵母や麹菌などの微生物の作用によって作られるのですが、微生物のまわりにアルコールが貯まってくると、結局、このアルコールのために微生物は死んでしまいます。その限界の値は20%程度といわれます。なので、20%より濃い日本酒やワインは作れないのです。
もっと強いお酒を造るには、お酒を蒸留して濃縮しなければならないのです。なぜ、20%程度で死んでしまうのかについては、アルコールが細胞を直に破壊する消毒のような作用ではなく、アルコール自体が細胞にストレスになり、細胞のはたらきを低下させて死にいたると考えられています。とすれば、この低濃度での作用には時間が必要なので、微生物を何時間もアルコールに漬けていないと起こらないことになります。
やっぱり、お酒で消毒は難しいのです。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)