「松浦武四郎の足跡・功績たどる」
コピーライタークリエイティブディレクター 岡田 直也氏
ノンフィクション作家筑波大名誉教授 谷川 彰英氏
NHK札幌放送局長 若泉 久朗氏
地名に関する著書が多いノンフィクション作家で筑波大名誉教授の谷川彰英氏は「本州でも秋田、岩手より北部には、アイヌ語で川を意味するナイが付く地名が残っている。しかし川の上流部だけ。和人が山奥にアイヌの人たちを追い込んでいき、下流部は水田にして和人が支配したから」とアイヌ民族がかつてはもっと広範囲に住んでいたと指摘。
コピーライターでクリエイティブディレクターの岡田直也氏も、和人が河口で大量にサケを捕獲して川を中心に生きるアイヌの暮らしを圧迫したことに加え、明治政府が漁業権を取り上げ彼らを農民にしようとしたとして、「アイヌの人たちの生活の場がどんどん奪われていった悲しい歴史がある」と北海道の負の側面に触れた。
一方、この講座のテーマである松浦武四郎は、和人による圧迫が強まっていた1845年以降、6回にわたって道内を踏査し、海岸線を歩き通しただけでなく内陸、離島、南樺太や国後、択捉まで足跡を残した。
岡田氏は、武四郎はただ探検しただけに終わらず、アイヌ語を覚えてアイヌの人たちから直接話を聞きながら地形や植生などを詳細に調べ上げ、その窮状を告発もしたために松前藩から命を狙われたほど、最もアイヌの人々の心に寄り添った和人だと紹介。それなのに教科書に取り上げられることはほとんどなく、全国的には知られていないと嘆いた。
NHK札幌放送局長の若泉久朗氏は、文字を持たないアイヌ語の地名が残ったのは、武四郎が克明に記録していたからだと功績を称賛。
谷川氏は「〝北海道〟はアイヌ語で国を表す〝カイ〟から武四郎が命名した。全国の都道府県名のうち個人が命名したのはここだけ」と述べた上で、武四郎のそうした気持ちにもかかわらず、その後の和人はアイヌの人々の思いを十分に伝える努力をせず勝手に新しい地名を付けたことが残念と苦言を呈した。
このほか若泉氏は、NHKが北海道命名150年記念で制作している武四郎を主人公としたドラマについて、冬のシーンの撮影が残っており来春に道内で先行放送する予定だと報告した。