「一日一個のリンゴは医者を遠ざける」ということわざがあります。これはイギリスのウエールズ地方のことわざで、英語では「Anapple a day keeps the doctor away.」といいます。私は中学の英語の教科書に載っていたのを覚えています。確か「keep away」の言い方の例文として使われていたように記憶しています。でも、リンゴが健康に良い食べ物だということに興味がいってしまい、試験では点数が取れなかったような…。果たして、リンゴは健康に良いのでしょうか。
数年前に、このことわざを検証すべく、イギリスのオックスフォード大学で興味ある研究が行われました。高脂血症の治療薬であり、わが北大からノーベル賞を受賞した鈴木先生が開発に貢献した、スタチン系薬剤とリンゴの効果を比較するという意欲的(?)な研究です。
50歳以上の人を対象に、「1日1個のリンゴ」を食べ続けて、薬を飲まなかった人と、スタチン系薬剤を使用して、特に「1日1個のリンゴ」を実践しなかった人を比べると、両方ともしなかった人たちに比べて、循環系疾患(脳卒中や心筋梗塞など)による死亡率が双方とも同程度に低下したというのです。スタチン系の薬剤は低い確率ではありますが、副作用が出る恐れがありますから、リンゴは極めて優秀ということになります。
リンゴは食物繊維が豊富です。これは糖分の吸収を緩やかにして、血糖の上昇を抑え、ダイエット効果が期待されます。食物繊維を多くとると、腸内細菌の環境が整えられて、肥満予防やがん予防効果も期待できます。
また、ポリフェノールが多く含まれており、抗酸化作用があると考えられています。抗酸化作用は細胞を保護して、動脈硬化やがんの発生を抑えるといわれています。もちろん、ビタミンBやCが豊富な食べ物です。リンゴは結構優秀な健康食品ではあるのです。こうしたことが、先の研究結果の原因なのかもしれません。
そういえば、アメリカに留学していた時、周りの若い研究者たちはランチ用にリンゴを丸ごと1個持ってくる人が多かったことを思い出しました。あとは簡単なサンドイッチ一つです。あまりにシンプルなランチに驚いたものですが、「リンゴ1個」がキーポイントだったのかもしれません。
昔からのリンゴの名産地であった、生まれ故郷(滝川市江部乙町)の出身者の集まりに顔を出して、楽しく語らっているときに、ふと、そんなことを思い出しました。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)