春から夏に向かう時期になりました。気温が上がってくると話題になるのが熱中症です。人は常に熱を生じさせています。この熱を皮膚などから周りの空気に放出して、体温を一定に保つしくみが備わっています。ですから、気温が高くなると、熱の放出の効率が落ちてしまい、体に熱がこもるようになってしまいます。そうなると、体温が上がってしまい、それによって頭痛、めまい、悪心、嘔吐、失神などの症状が現れます。さらに、その状態を放置すると、死の危険性が出てくることになります。
もちろん、熱中症にならないための予防に心がけるべきです。しかし、熱中症は、「おかしい」と思った時には、すでにかなり進行していることが多く、おかしいと思っているうちに急に気を失うといったことも珍しくありません。
熱中症が起こるしくみには脱水症が関係しています。気温が高くなり、熱の放出がしにくくなると、汗をかきます。汗が皮膚表面で蒸発し、それによって皮膚の熱を放出するようにするのです。さかんに汗をかいている間は、体温は上がりません。しかし、汗をかき続ければ、体の水分が失われて、汗の量が減ってきます。そうなると、体温が徐々に上がって熱中症になります。だから、気温が高い環境にいるときには、水分補給が必要となるのです。
体の水分が不足するとのどが渇きます。ですから、熱中症予防として、のどの渇きを感じたら、水を飲めばいいと思っている人が大半なのですが、実は正しくありません。飲んだ水が体に吸収されるには、数十分の時間を要します。その間に熱中症が急速に進むことも多いからです。
また、熱中症の初期には胃腸の運動が止まってしまうということがしばしば見られます。こうなると、飲んだ水は胃に溜まるだけになってしまいます。実は、胃は水を吸収する能力がないので、たまった水はそのままになります。つまり、いくら水を飲んでも、のどの渇きは収まらず、脱水症は解消しないのです。
という訳で、熱中症の予防には、のどが渇く前から、あらかじめ水分補給をすることが大事です。一度にたくさん飲むのではなく、少しずつ、こまめに水分補給するのが肝要です。炎天下の現場で作業をする人は、とくに作業開始と同時に、水分補給を開始するのが得策です。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)