実は、私の父はいわゆる酒豪でした。毎日、ビール大瓶を6本ぐらい空けていました。私にはとてもできない相談です。
ある日、教員をしていた父のもとに、成人した教え子数人が一升瓶を4、5本持参して遊びに来て、「先生、一緒に飲もう!」と酒宴が始まりました。夜も深くなって、教え子はみんな酔いつぶれて眠ってしまいました。でも、まだ2本ほど空いていなかったため、父親はもったいないからと、一人で夜を明かして全部飲み干したのだそうです。まあ、すでに鬼籍に入っている父親の酒飲み自慢話なので、真偽の程は確かめようもないのですが、こういうのを鯨飲というのでしょう。
しかし、なぜお酒となると、たくさんの量が飲めるのでしょうか。学生の頃、サッポロビール園の飲み放題で、元が取れると称してジンギスカンそっちのけで、ジョッキを7、8杯と飲み続けていた悪友もいました。ジョッキには500㍉㍑ほどのビールが注がれていますから、実に4㍑弱。重さにして4㌔です。
そんな大量のビールがどうしておなかに収まるのでしょう。水で4㍑飲めと言われても絶対に不可能です。500㍉㍑、つまり0・5㍑も飲めばおなかが張ってきます。確かにお酒はトイレも近くなりますから、大丈夫なのかもしれませんが、不思議なものです。
大体、お店で出される飲み物で、当たり前にお代わりするのはお酒ぐらいじゃないでしょうか。カフェでジュースを何杯も飲む人なんて見たこともありません。コーヒーもたかだか2杯ぐらいで、量は知れたものです。どう考えてもアルコール自体に鯨飲を可能にする秘密がありそうです。
まず、アルコールは胃腸運動を活発化する作用があります。なので、お酒は胃に貯まりにくく、腸に速やかに送られます。炭酸にも同じ効果があるので、ビールはさらに胃に貯まりにくいことになります。
また、アルコールには気持ちを高揚させる効果があるので、杯を重ねるうちに、どんどん盛り上がって、ブレーキが利かなくなることもあるようです。先に触れましたように、アルコールはおしっこの量を増やしますので、大量のお酒を吸収する余地が体に生まれやすいと考えることもできます。
つまり、お酒は油断するとすぐに飲み過ぎになるということです。お気を付けください。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)