グラッパというお酒をご存知でしょうか。イタリアで食後に楽しむお酒として、ごく一般的なものですが、日本ではあまりなじみがありません。基本的にはブランデーのようなお酒ですが、製法も味わいも別なものといえるでしょう。
まず材料ですが、ワインを造るために果汁を絞ったあとの、ブドウの実や皮などの搾りかすです。それで、かす取りブランデーとも呼ばれます。つまり、産業廃棄物の有効利用です。この搾りかすを発酵させ、蒸留します。この後は、すぐに瓶詰めしたり、樽で熟成したりして製品とします。なので、透明なものから熟成中に色がついたものまで、さまざまな種類が造られます。
貴族にワインを納めた後に残った搾りかすで、農民がお酒を造ったことが始まりといわれています。農民はワインを口にできないので、グラッパで我慢したという訳です。まさに庶民のお酒です。
ワインを蒸留したブランデーは、芳醇な香りとまろやかな口当たりが定番ですが、グラッパはちょっと違います。香りはむしろワインそのもののフルーティさで、さわやかさが広がります。
ただ、若干くせがあり、わらのような匂いが混じります。これは悪い匂いではなく、この匂いがグラッパらしい個性を主張するのです。味わいはすっきりとしていて、後味はスムーズです。味に飽きることがないので、次を誘います。
イタリア料理を堪能して満腹になった状態で、グラッパが入ると、口の中も気分もすっきりとします。やはり地の食べ物には、地の酒です。ただ、あくまでも蒸留酒。アルコール度数は高く、酔いが回りやすいお酒ですので、調子に乗っていると失敗します。
イタリア料理が流行し始めて、かなりの時間がたち、「イタ飯」という言い方も、普通に通じる昨今ですが、イタリアンレストランにも、イタリアンバールにも、グラッパを置いてあるお店はまだ少数です。少し残念な気がしています。
グラッパの個性やアルコールの強さが、日本人の口には合わないと、あるシェフが説明してくれました。そんなことはないと思います。ワインがお好きな人なら、抵抗なく飲めるのではないでしょうか。
食後や2次会でワインを続けるより、グラッパですっきり締めるのは、結構おしゃれなのではと、おしゃれと縁遠い私は思っています。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)