
河西邦人学長
ネットとリアルの融合を
教育機関が揺れている。新型コロナウイルス感染拡大の影響で多くの施設が一時閉鎖せざるを得なくなり、にわかに遠隔教育が広がりを見せている。来春の新札幌キャンパス開設などで存在感を高めてきた札幌学院大でも、5月上旬にオンライン授業が始まった。河西邦人学長(60)に新たな取り組みの状況、コロナ後の大学の変化に関する考えを聞いた。
―コロナ問題で、新年度の授業ができなくなった。
道からの休業要請を受け、今はどの大学も校舎を使う教育を控えている。だがオンライン教育は要請の対象外。本学では急きょ、4月第2週に予定していた通常の開講をやめ、5月4日からインターネットによる遠隔学習管理システムの運用を始めた。細かな問題にはあえて目をつぶりながらスピード最重視で稼働にこぎ着けた。各教員には実質1カ月でオンライン向けの教材を準備してもらった。
―どんな仕組みか。
教員は毎回の講義のテキストや資料をアップロードし、学生は所定の期間内にダウンロードして学習する。必要に応じて課題をオンライン提出する。将来は映像によるライブ講義、ビデオ会議式のゼミなどもあり得るが、まずは文字ベースで始めたところだ。
―運用してどんなポイントが見えたか。
大きく3点ある。まずハードの問題。大学側で、多数の同時アクセスや大容量ファイルのやりとりに堪えるサーバー、ネット回線の確保が必要になる。2つ目はコンテンツだ。全教員が、これまで培った教育スキルをオンラインですぐ生かせるとは限らない。今回各教員に資料のアップロードを依頼したときには戸惑いの声も上がった。だが教員によっては自主的に動画コンテンツを作る例もあり、人によって対応の差が大きい。
―受け手の学生側は。
それが3つ目の問題で、ネットやパソコンの利用環境が学生ごとに違う。容量無制限の光回線を使う人もいれば、上限2GBのスマートフォン契約のみという場合もある。15%の学生はパソコンを持っていないため、課題などでやれる作業が限られる。
―ネット環境のない学生もいるのでは。
大学に来れば、構内に約500台あるパソコンでネットを使える。ただそれでは不便なため、6月、オンライン授業を受けるための環境を整えてもらう目的で、全学生に一律5万円の臨時奨学金を支給すると決めたところだ。
―休業要請が解除され次第、従来型の講義に戻すのか。
本年度前期は全講義をオンライン授業にすると告知した。後期も、いきなり全面的に元に戻すことはないだろうと考えている。政府の言う「新しい生活様式」を前提とすれば、学生は教室で間隔を空けて座ることになり、受講者の多い講義だと今の大教室でも収容しきれない。大きな授業はオンラインで、ゼミのような少人数教育は会って対面でというイメージを持っている。
―コロナを機に教育のオンライン化が加速すると、大学運営はどんな影響を受けるか。
これから起こり得るシナリオの一つとして言えば、キャンパスの意味合いが変わる。全員が施設に集まる必要がないなら、土地・建物への大規模投資は不要になり、その分授業料を抑える、講義や教育のソフト部分にお金を回すなどの選択肢が生まれる。ただ、全てがネットで完結するのがいいとは思わない。本学としては、ネットとリアルの優れた部分を融合させた仕組みをつくり、質の高い教育を提供したい。
(聞き手・吉村 慎司)
河西邦人(かわにし・くにひと)1960年4月生まれ。88年早大院商学研究科修士課程修了、カウンティ・ナットウエスト証券入社。97年青山学院大院経営学研究科博士後期課程満期退学。2009年札幌学院大経営学部経営学科教授。19年4月学長就任。
(北海道建設新聞2020年5月28日付2面より)