機能、デザイン、性能偏りなく
その土地に「元からあったような」普遍的な家づくりを目指しているフーム空間計画工房(本社・札幌)。機能とデザイン、性能について偏りなく向き合い、長く住み続けられる家として口コミを中心にファンを広げている。特に室内環境や省エネに力を入れ、最近は宿泊施設やレストランなど商業施設を手掛ける。
代表の宮島豊さんは1958年8月、札幌生まれ。室蘭工大の建築工学科環境工学研究室を卒業後、全国大手の設計会社に就職。88年に赴任先の福岡で会社を辞め、フリーで仕事をするようになった。
給料がよく、スーツ姿でデスクワークできると憧れていた大手設計会社の仕事。夢がかない、赴任先の仙台や福岡で仕事をし、現場で左官や大工と触れ合ううちに「自分には現場が肌に合う」と感じた。
独立後は、幸いにも仕事に困らなかった。北海道からJRコンテナで木製の断熱サッシを取り寄せ、北海道水準の断熱性能を持った住宅を福岡市内に建てた。これが地域で話題となり、次から次へと依頼を受けた。
89年に1級建築士事務所のフーム空間計画工房を設立。社名のフームは英語のWhom(誰)から来ていて「作曲者不詳の曲など、誰の作品か分からない設計を」との思いが込められている。ドイツやスイスのアルプス麓に建つ、その地方にある材料や技術を使って普通に造った家などのイメージだ。
仲の良い工芸店のマスターが名付け親になってくれた。無名の職人による誠実な手仕事に美を見いだす〝用の美〟の考え方を教えてもらい「実用的で、安く美しいものをつくりなさい」と諭された。
95年に札幌へ戻る。九州のお客さんは予算に余裕のあるシニア世代が大半で、手掛ける家も大きく立派なものが多かった。「自分と同じ30―40代の人に向け、予算2000万円から2500万円までの家を造りたくなった」と振り返る。
大学時代から温熱を中心とした住環境に関心が高く、エネルギー消費を抑えたり調湿を意識した家づくりは、自身の一丁目一番地のようなものだった。熱損失が減るよう高性能グラスウールや木製サッシで断熱性能を高めたり、空気のよどみに配慮した換気計画を考えることで、快適で健康に過ごせる家を造る。
顧客の要望から扱うようになった薪(まき)ストーブは、フーム空間計画工房の代名詞の一つだ。空気の自然対流によって、ストーブの熱が2階にも流れるようプランニングすれば、家全体を暖められる。配置方法を工夫し、煙突からの放熱効果をうまく利用することで、浴室など暖まりにくい空間もカバーできる。
キッチン天板や洗面カウンターに木を使うのも同社の特長だ。数字上の室温よりも体感温度を重視するため、温かく心地よさを感じやすい木材を空間で積極的に使う。適切に表面仕上げすることで、メンテナンス性や耐久性でもメリットは大きいという。
〝そこに在るべき家の姿〟を探求してきた結果、最近は宿泊施設やレストラン、ワイナリーといった商業空間の仕事も受けるようになった。快適で健康的に過ごす場に、家や商業施設といった垣根はいらない。
手掛けた宿泊施設に泊まり、その空間の快適さに感動し、仕事を打診してくる人もいる。宮島さんは「フームの良さを多くの人に知ってもらうために、これからはアパートを設計したい」と話している。
(北海道建設新聞2020年9月7日付3面より)