省力化、生産性の維持・向上に
虫と雑菌の心配がなく室内栽培に適した「無菌人工土壌」を展開するラテラ(本社・札幌)は、北大発認定ベンチャー企業だ。北大ビジネス・スプリングにあるオフィス内には無菌人工土壌で育てた植物や野菜が所狭しと並ぶ。荒磯慎也社長は、水耕栽培と比べて複雑な設備が必要ないなど無菌人工土壌には優位点があり、近未来型の植物工場実現に一役買えると自負する。
荒磯社長は1983年生まれ。北海道工業大(現・道科学大)卒業後、農林水産省事業の農場研修生として三笠市内で農業に携わったほか、同市職員として地域活性化事業に参画。2013年、起業家から話を聞く機会があったことをきっかけに興味を持ち、15年に同社を設立した。
北大名誉教授の父、恒久取締役CTOと親子産学連携して無菌人工土壌が生まれた。開発のきっかけとなったのは、畑仕事が趣味だった大叔母が高齢者施設に入居したことだ。雑菌で感染症を引き起こす心配なく、施設でもプランティングが楽しめないかと考えた。
中学生の時、父の研究を手伝った経験がある。鉄分を与えた植物の根を調べる中で宮崎駿監督のアニメーション「天空の城ラピュタ」に出てくるような立派な根を見たことが印象深いという。「13年の盆にゼオライトと肥料を組み合わせることをひらめいた。そのとき、父の作った活性剤も使えると思った」。ここから開発が加速する。
主原料は鉱物のゼオライト。結晶構造の細孔に肥料を吸着・保持できる。水やりすると一定量の肥料が溶け、植物が根から栄養として吸収する。
完全無機物質で雑菌や虫が発生せず、油成分がないため器や手が汚れない。このため室内栽培に最適だ。年に一度水洗いをし、液肥を加えることで繰り返し使える。
同社は種と無菌人工土壌をセットにした栽培キットをECサイトほかで販売中。都会のマンションに暮らす人や虫が嫌いな女性などをターゲットに据える。最近は巣ごもり用の新たなギフトとして需要が出てきた。
植物工場でも活用できる。水耕栽培ではレタスやトマトといった一部の作物しか作れないが、無菌人工土壌は根菜や果樹といった水耕栽培では難しい作物に対応する。
光の確保と灌水(かんすい)システムの構築ができれば無農薬で簡単に栽培可能だ。水耕栽培と比べて水を大量に消費せず複雑な設備が不要なほか、ランニングコスト抑制と省力化に貢献できるため、近未来の植物工場を構築する有力な技術になると提案。水耕栽培では不可能な野菜を栽培したいという企業と共同研究を進めている。
工場を新築せず既存のビルなどを使った〝都市型植物工場〟の期待も高まる。日光代わりにLEDを活用し、水やりすればきれいな環境で低コストで生産できる。荒磯社長は「癒やし効果も期待して育てたオフィス産の野菜を売る時代がくるかもしれない」と話す。
高機能性作物を生産できるのも魅力だ。通常の土壌と無菌人工土壌で育てたニンジンの成分を分析した結果、ビタミンAと糖度が通常の土壌に比べて高い数値を示したという。
農業就業人口が減り続ける今、新しい農業の在り方を模索すべき段階にあると考えている。「農業は土づくりから」という概念があるように無菌人工土壌が普及するには時間がかかるかもしれないが、省力化で現場負担を減らしつつ生産性を維持・向上できると期待。「宇宙での活用など無菌人工土壌を広めたい」と夢を語る。
(北海道建設新聞2020年10月10日付3面より)