行政書士池田玲菜の見た世界

 アンパサンド行政書士事務所の池田玲菜代表が、行政書士の視点から連載するコラム。(北海道建設新聞本紙3面で、毎月第1木曜日に掲載しています)

行政書士池田玲菜の見た世界(3)分からないまま過ごす?

2020年12月04日 12時00分

技術革新でも自己研さん

 突然の私事で恐縮ですが、本年9月に受検した建設業経理士2級の試験に合格いたしました。今回は、なぜその勉強をしたのかをお話しいたします。

 多くの行政書士業務には決算書が付きまといます。建設コンサルタント業の登録には資本金500万円以上、純資産額1000万円以上が必要ですが、決算書の見方を知らなければ要件を満たしているのかを判断することはできません。

 行政書士を始めた頃の私には簿記や会計の知識は全くありませんでした。初めて建設業許可の新規取得の仕事を受任した際は、決算報告書を見るのも初めてでした。何とか数値を拾い、建設業法の定めるフォーマットを見よう見まねで埋めました。補助金の申請に際しても、「減価償却」や「営業利益」といった言葉が並びますが、意味も分からないままに電卓をとにかくたたいていました。

 極め付きはDES(債務の株式化)のための株主総会議事録作成の依頼でした。会社に対し負債を有している債権者に、金銭で返済する代わりに株式を交付する手続きです。それがなぜ可能なのか、どのような意味を持つのかも分からずに書式を探して議事録を作成しました。

 分からないままでは自分の業務を評価できないと3年半前に一念発起しました。簿記講師を務めている知人に講師を頼み、日商簿記3級を受検。その後、決算書の読み方を学ぶためにビジネス会計3級を受検し、今回の建設業経理士2級に至りました。

 行政書士になるための試験の試験科目は憲法や民法、行政法といった法律科目と一般教養です。許認可の種類や申請の方法はもちろん、決算書の見方などは試験勉強では学びません。行政書士は登録の前後に他の事務所で修行することも少なく、手厚い集合研修もないので、知識や経験を持たない場合は、自分で学ぶか、分からないままに過ごすしかありません。

 さまざまな技術革新のおかげで、「分からないままに過ごす」ことは容易になりました。会計ソフトに言われるままに数字を打ち込めば決算書は出来上がり確定申告書の作成、送信も可能です。遺言や契約書でさえソフトウエアで簡単に高品質(に見える)ものを作成することができます。

 技術革新そのものは生産性や成果物の質を向上させるもので、とても重要です。一方で、その恩恵を漫然と受け、自己の業務に対して「分からないままに過ごす」のであれば、その業務はいつかAIにとって代わられてしまってもやむを得ないでしょう。技術革新のもとに建設キャリアアップシステムや法人番号の運用が進めば、行政書士が活躍できる分野は狭まっていくことも考えられます。

 「分からないままに過ごす」怖さに自覚的になり、自己研さんを続け、AIに負けない強さを身に付けていきたいものです。

(北海道建設新聞2020年12月3日付3面より)


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