新型コロナウイルスに対するワクチンが作られ、欧米などで接種が開始されました。最初に接種が開始されたのがイギリスで、12月上旬から約1カ月たちましたが、深刻な副反応報告はなく、接種は順調に進んでいるようです。日本では2月下旬から接種が開始される予定です。そこで、あらためてワクチンについての考え方を整理しておこうと思います。
ある感染症に一度かかったら、その後、その感染症にはかかりにくくなる、という人類共通の経験から、免疫という仕組みが考えられるようになりました。といっても、わざと感染症にかかるわけにもいきません。感染症が治る前に死んでしまったら元も子もないからです。
そこで、感染症を起こす病原体の一部をあらかじめ接種すると、免疫の仕組みが作動して、感染症にかからないで済むのではないか、という考えにたどり着きました。この病原体の一部や病原性をなくした病原体を用意して、体に接種するようにしたものをワクチンといいます。
つまり、ワクチンは病原体を破壊するものではなく、体への病原体の侵入自体を防ぐ能力もありません。ワクチンで高まった免疫力で侵入した病原体の増殖を抑えるのが役割です。したがって、増殖を抑えきれないことがまれに起こるので、たまに発病する人がでます。ただ、発病しても重症化はなりにくいとされています。
新型コロナウイルスは人から人へ感染を繰り返して広がっています。もしワクチンを接種した人に感染しても、その人がさらにほかの人にうつす危険性はほとんどないとみなせます。まれに他の人にうつしたとしても、その人がワクチンを接種していれば、発症する危険性は限りなくゼロに近いでしょう。
ワクチンは感染の連鎖を断ち切るのが役割です。つまり、ワクチンの効力を最大限に生かして新型コロナウイルスを根絶するためには、みんながワクチンを接種するのが理想です。
全員がワクチン接種するのは難しいとしても、人口の60%が接種できれば、新型コロナウイルスは流行しなくなると推定されます。それまでには接種開始から相当な時間を要します。その間は、これまで通り手洗い、マスク、3密回避の感染対策の継続が必要なのです。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)