避難所などを「快適」に
エコファクトリー(本社・熊本)が開発した輻射(ふくしゃ)式冷暖房装置を導入する施設が増えている。東北以南に加え、近年は青森県や道南域に広がり、総合体育館、学校、老人ホーム、病院、マンションなど導入先はさまざま。中国やカンボジア、シンガポールといったアジア圏にも拡大している。同社の全国代理店を担うエコパジャパン(同・函館)の薮下宏一社長に今後の空調設備の在り方などを聞いた。
―エコファクトリーの代理店となった経緯を。
冷熱関連部材の製造・販売を手掛けるヤブシタ(本社・札幌)の代表だった2016年にお客さまから頂いた技術雑誌で知ったのが始まり。理想の「快適」空間をつくる未来の冷暖房技術を感じた。輻射熱による冷暖房技術で、空気などの物質を介さず熱線によって物体を暖める原理を応用したものだった。すぐに熊本市の本社に問い合わせ、打ち合わせを持ち掛けた。
―快適な室内環境づくりに必要なものとは。
ストレスを極限まで感じさせないこと。従来の空調は①人体と精神に影響する音・風・むらのある室温②面倒な手入れなどの維持管理③真夏・冬に割高となるコスト―が課題だった。
輻射による空調はこれらを解決する。室内温度を均一に保ち、音、風を感じさせない。冬季の足元だけ冷えるという課題も解消する。手入れは発熱体やドレンパンを軽く拭く程度でよく、頻度も少なく済む。
室温が整えば、最小限の燃費で温度を保ち、コストは24時間の稼働で効果を発揮し、35%以上の電力削減に成功した事例もある。
―輻射式冷暖房装置に注目した理由を。
コロナ禍を皮切りにウイルス対策に関心が集まっている。従来の空調設備は、強い風でウイルスを拡散させ、感染リスクを高める可能性が高い。室内の風によるウイルスの分散は実証実験でも証明されている。輻射式は風がほぼ発生しないため、空気が舞う心配がなく、感染リスク低減に期待できる。ウイルスだけでなく、ほこりやアレルゲンによる悪影響も解消する。「風がなくほこりが舞わないため、気管支炎の症状がなくなった」という話も聞いている。
―今後の事業展開について。
室内の寒暖差に悩む道内や東北などの寒冷地に普及させたい。道南域では、七飯町にあるレストランなどの複合施設男爵ラウンジや、江差町の養護老人ホームひのき荘など、浸透し始めている。「施設全体の温度が一定に保たれ、足元まで暖かい。高熱費が大幅に下がった」という声も出ている。
―全国展開する中で特にどんな施設に導入を図りたいか。
自然災害が全国各地で多発する中、総合体育館や役場など避難所となる施設に設置したい。猛暑・厳冬期に災害が起きた場合は、命に関わる。信頼して避難できる快適な避難所があれば守れる命もある。
18年の北海道胆振東部地震のような電気系統が壊滅した場合の対策も必要だ。輻射式冷暖房装置を導入した和歌山県の有田市民体育館は都市ガスやプロパンにも対応していて、災害避難所として参考になる事例の一つだと思う。快適な避難所を増やし、安心の確保と確実な人命救助を可能にすれば、明るい未来につなげられる。今後も〝快適とは〟を追求しながらまい進したい。
(聞き手・佐々木 健悟)
薮下宏一社長(やぶした・こういち)1946年9月9日、函館市生まれ。早大教育学部卒。70年、ヤブシタに入社。97年代表取締役、2007年同会長に就任。17年にエコファクトリーと全国代理店契約を結び、エコパジャパンを設立した。
(北海道建設新聞2021年2月18日付2面より)