設計、加工から組み立てまで
石狩湾新港に本社と工場を構えるシンセメック(本社・石狩)が手掛けるのは、オーダーメードの製造装置・生産ラインだ。自動車業界や食品業界に向けて5つの建屋で製作する。特に直近15年間では工場の新増設や機械導入など積極的な設備投資を続けてきた。業態も特徴的で、設計から部品加工、制御系、組み立て、まで一貫して自社で開発・生産している。
旋盤1台の機械加工工場として70年前に創業。受託加工が中心事業だったが「賃加工(下請け)だけではもうからない」と考えた松本英二会長が音頭を取り、1980年代前半から製造装置に進出。新たに電気・電子や制御の人材を雇って技術力を高め、受注を増やしていった。
顧客は北海道から九州まで広がる。特に自動車業界は売り上げの6割前後を占め、アイシン北海道や日産自動車など道内外の企業に部品組み立て、計測のラインなどを納めている。納期は半年ほどが標準的だが、1年がかりの案件もあるという。企業の海外拠点がユーザーとなる案件もあり、米国や中国、メキシコにも納入してきた。
近年は総菜や冷凍食品のメーカーなど食品業界へも進出し、売り上げを少しずつ伸ばしている。契機は松本会長が設計して11年に初めて販売した「カボチャ乱切り装置」だ。道内中心に30台以上を販売し、来年にはニュージーランドの企業にも販売予定だ。
製造設備の大型化が進む現状を見越して、昨年10月には延べ1700㎡の規模となる第5工場を新設。長さ50mの製造ラインを構築できるようになり、新工場でなければこなせない案件を手掛けた。合わせて導入した大型5面加工機も高い稼働率だという。
同社は引き続き製作規模の引き上げに取り組む方針で、来春も大型立旋盤を新たに導入予定だ。松本会長は「道内には大型加工に対応できる企業が当社を含めて数社しかいない」として、「北海道のニッチを狙って受注競争力を高めたい」と語る。製作物が大きいと納期も長くなる傾向にあり、長期的な売り上げの見込みが立つのもメリットだ。
認識技術のニーズが高まっている状況を踏まえ、18年には顧客と共同で計測・検査の開発ができる環境を整えた。AIやIoTなど新技術に積極的に取り組む。技術の一部はユーチューブで公開中で、グラタンに乗ったエビを認識してトレイの向きをそろえる装置などを紹介する。
一連の設備導入の背景には、投資を止めると受注が難しくなるとの危機感がある。北海道は製造業が弱いといわれるが、それでも技術の要求水準は上がっているという。
同社は、製造装置の設計や部品加工から組み立て、制御、据え付けまでを一貫して自社で手掛ける。「全工程を内製できるから納期やコストで他社に勝てる」と胸を張る。昨年からは溶接も手掛け始め、そのために新卒人材を雇った。
主事業の製造装置と並行して売り上げの2割を占める受託加工も続ける考えだ。製造装置事業に比べれば利益率は下がるが、技術力向上の意義は大きいという。
コロナ禍で企業の設備投資が落ち込んだ影響を受け、昨年からの売り上げはコロナ前に比べると下がっているという。そんな業況の悪い現状でも必要な投資は続ける考えだ。「顧客の困りごとを狙って投資する」と未来のニーズに目を向ける。
(北海道建設新聞2021年10月4日付3面より)