事象同士の共通点を発見
就職活動をしていた頃、今後どのような世の中になれば良いのか-という趣旨の小論文を書きました。大仰にも「研究機関における研究の成果が生活に活かされていることが分かる街づくりをしたい」と書いた覚えがあります。翻って、現在の私は「今の世の中には研究機関における研究は役に立っている」と認識できるようになりました。
それは、昨今の職場環境の変化にも見ることができます。特に大きな変化を見ることができるのは、各種ハラスメントやLGBTなどに対する配慮です。
女性活躍によって日本の労働力を維持させ日本が持続的成長をするために、誰にとっても働きやすい職場環境を築かなければならないという現実的な問題や当事者による草の根活動、各種の裁判判決が変化の根源となっていることはもちろんです。その一方で、人口減少社会や労働環境に関する研究、ジェンダー(性差や性別に関する社会的規範)に関する研究、その他の数多くの研究成果も変化の一因となっているのだと思うのです。
対象は、職場環境の変化のみに限られません。インフラの維持管理については大企業やベンチャー企業、メーカーが新技術を開発し、効率化が実現しているように感じます。しかし、大学における基礎研究が多くの新技術開発の基礎となっていたり、大学が企業や自治体と共同研究をすることで、研究開発や実証が加速的に促進されたりしています。
このように研究成果の実用化、というより研究成果が世の中に与えている影響は、直接的には見えないことが多いです。しかし着実に存在し、世の中をよりよい方へと変えているようです。
ところで、なぜ私は就職活動の際に、恐れ多くも「研究機関における研究成果は生活に活かされていることが分かりづらい」と思っていたのでしょうか。世の中を見る目が成長するとともに、当時の幼さも理解できるようになりました。
大学では、日本史学科に在籍していました。当時の資料をあたり、先行研究を読み解き、かつての日本の姿を明らかにしていく学問です。私が残せた爪痕は、かすり傷にもならない程度のものであるものの、その一端を担えたことは幸せでしたが、一方で世の中を変えることはできない学問と感じていました。江戸の火消しの分布を明らかにしても、人生は豊かにはなりますが、現代社会の抱えている問題は解決できないという鬱屈(うっくつ)した感情を抱えていたのです。
しかし、町火消しのように大きな町を分割し、担当を決めることは効果を発揮するという歴史的事実は、現代の街づくりに役立てることができます。それに加え、このように現在の事象を分析したり、事象同士の共通点を見つける視点を身に付けることができ、価値があるものだと思います。