メタボリック症候群は、単なる肥満のことではなく、内臓脂肪というお腹の中の臓器に脂肪が蓄積して、そのために動脈硬化が進行したり糖尿病予備群となったりする状態を示す言葉です。いわば、病気一歩手前の状態を示すもので、放置すると糖尿病、高血圧、高脂血症となり、さらに心筋梗塞、脳卒中、腎臓病などの深刻な病気に進行する危険性が高まります。メタボリック症候群自体は痛くもかゆくもなく、見過ごされることが多いのですが、気が付くと、すでにその先の病気になってしまっているというケースが多く、厄介なものです。
メタボリック症候群の原因には、生活習慣の偏り、乱れが指摘されています。具体的には、過食、運動不足は肥満とイメージが直結しているので、理解しやすいと思います。これに加えて、継続的な飲酒や喫煙は、動脈硬化を助長するため、メタボリック症候群の促進因子といえます。
この度、もう一つの重要な生活習慣である睡眠とメタボリック症候群に密接な関係があるという研究結果が発表されました。米国からの研究発表で、睡眠不足がメタボリック症候群発症の原因となりうるというものです。
研究は19歳から39歳までの肥満ではない健康な人を、4時間睡眠を2週間続けるグループと、9時間睡眠を2週間続けるグループに分けました。そして、さらに全員9時間睡眠を3日間続け、検査結果を試験前と比較しました。
この間、食べ物には制限をかけずに、好きなものを食べてもらいます。そうすると、睡眠を4時間に制限されたグループでは9時間睡眠のグループに比べてタンパク質と脂肪の摂取量が増え、摂取カロリーも増加していました。
最後の3日間で元に戻ったので、摂取カロリーの増加は睡眠不足のためと考えられました。この結果、睡眠制限グループでは平均で体重が0・5㌔、内臓脂肪は11%増加していました。
しかし、不思議なのは、睡眠時間が制限されたグループは、睡眠時間を元に戻しても内臓脂肪が増え続けていたということです。睡眠不足のために内臓脂肪がたまりやすい体質に変化した可能性を示しています。
今回の研究により、健康な比較的若い人でも、睡眠不足が脂肪代謝に影響して肥満、ひいてはメタボリック症候群の引き金を引くということが分かりました。重要な生活習慣として、睡眠時間を十分取るよう心掛けましょう。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)