ある日突然、腰に痛みが走り、ちょっとでも動かすと痛みが増強して、体を動かせなくなることがあります。最初は痛みというより衝撃を腰に受けるような感覚になるので、ドイツでは「魔女の一撃」と呼ばれます。魔女がひそかに背後から近づいて、腰に一撃を食らわせる、というイメージですね。
日本では「ぎっくり腰」と呼ばれる状態です。一般に重いものを持ち上げようと無理をしたとき、腰を大きくひねったときなどに起こるとされています。ゴルフや野球などのスポーツ中に起こることもあります。今は冬なので、雪かきの作業中に起こる危険性が高くなります。
それなら、重いものを持ったり、無理に腰をひねったりしなければいい、ということになるのですが、そうもいきません。朝、ベッドから起き上がろうとした瞬間、椅子に座っていて立ち上がろうとした瞬間、階段を上ろうとした瞬間などにも一撃を食らう人がたくさんいます。油断大敵、いつ魔女が襲ってくるかわからないのです。
医学的には「急性腰痛症」と呼ばれ、腰椎の捻挫や腰椎周辺の筋肉筋膜の挫傷などが原因とされます。かなり強い痛みが生じ、額に脂汗がにじむほどです。腰を動かすと痛みが増強するので、不安恐怖感が出て、腰を動かすことができなくなります。
そうなると、歩行や移動は不可能で、誰かに助けを求めることもままならなくなります。ホテルに宿泊してシャワー中に一撃が来て、しばらく裸のまま、誰にも連絡できなかった、という恐ろしい話を聞いたこともあります。
治療は、痛み止めの処方と患部の安静です。コルセットなどで腰を固定して、できれば、しばらく車いすを使うことになります。骨折や椎間板ヘルニアなどの病気がなければ、1週間ぐらいで確実に回復します。とにかく、何とか移動して医師に診てもらうしかありません。
いつ一撃を食らうか、予想は不可能です。一撃を食らう原因の一つは、運動不足による腰回りの筋肉の衰えです。特にデスクワーク、テレワーク中心の人は、長く座り続けるため、腰回りの筋肉が衰えがちです。
ですから、ウオーキング、ジョギングなど運動を励行して、腰回りの筋肉を鍛える必要があります。筋トレもいいですが、無理をすると逆に危険になります。毎日、地道に運動をするよう心掛けてください。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)