業界挙げて認知度向上へ
公共事業に携わる国や地方公共団体の職員減少に伴い、災害時の被害調査などで補償コンサルタントの活躍する舞台が広がっている。新たな業務に対応した知識の習得が迫られるとともに、未来を担う技術者の確保・育成を急ぐ必要がある。補償コンサルは「知的技術サービス業」という日本補償コンサルタント協会北海道支部の中野芳支部長に、現状と展望を聞いた。
―災害時における補償コンサルの役割は。
2011年の東日本大震災を契機に、日本補償コンサルタント復興支援協会が発足し、半壊以上の建物などを処理する公費解体の積算業務に従事するようになった。16年の熊本地震、18年の西日本豪雨などの支援を通じてノウハウを蓄積した。
昨年9月の北海道胆振東部地震では、公費解体の積算ができる技術職員が少ない厚真、安平の2町から要請を受け、管理と現場調査に当たった。災害が大規模・激甚化する中で、補償コンサルの出番が増えている。
―行政職員減少に伴う新たな業務とは。
補償コンサルに国土交通省が設ける登録部門は8つ。これまでの業務は、建物などの調査や補償金算定の「物件部門」、事業損失に関する調査、費用負担を算定する「事業損失部門」が中心だった。
近年は、公共用地取得の補償交渉などを担う「総合補償部門」が加わり、多数権利者への補償説明業務や成果物の点検業務など補償関連部門も外注されるようになった。
北海道開発局は、土地に関する補償金算定の土地評価業務を拡大する方針を示している。発注実績が少なかったこともあり道内で実務をこなせるのは数社のため、来年1月の支部研修では土地評価業務のカリキュラムを新設する。
―用地補償の担い手育成は。
現場の第一線で用地補償に携わるには、補償業務管理士の資格が不可欠だが、受験資格には4年以上の実務経験が求められる。
会員企業で3年離職率が3割を超えている今、仕事への興味ややりがい、給料アップにつながる資格取得の時期を前倒しさせたい。実務経験の短縮など受験要件の緩和を協会本部に働き掛けてきた結果、検討が始まった。従業員の定着率を高めたい。
補償業務管理士らを対象とする補償コンサルのCPD(継続的能力開発)制度が来年から本格運用となる。管理士は5年ごとの更新時までに80ポイント取得が必須。道支部では、会員が参加しやすいように全道各地で研修会を開き支援する。
CPDのポイントが入札時の技術者評価に加われば、モチベーションとなり、各業者も積極的に取り組むようになるので、発注者に要望している。
―人材確保の面で他産業との差別化は。
公共事業の減少が長く続き、コンサル業者が新規採用を再開したのは、ここ数年。技術者の高齢化が進む一方、技術の継承は進んでいない。
道支部ではことし、初めて若手技術者との座談会を開いた。測量などに比べ、重い荷物を持ったり、山奥に入ることも少ないので、「女性の働き続ける意欲が高い業界」との意見があった。出産・育児と両立できる労働環境を整備する必要がある。
一方で就職活動中の学生たちに、補償コンサルはほとんど認知されていない。求人情報サイトなどのツールを活用して「知的技術サービス業」であることを訴えれば、興味を持ってもらえるはず。業界を挙げて知名度のアップに取り組みたい。(聞き手・片山 健一)
中野芳(なかの・かおる)1952年1月27日生まれ、標茶町出身。70年3月釧路湖陵高卒。補償セミナリー(本社・札幌)社長。2014年から日本補償コンサルタント協会北海道支部長を務める。
(2019年10月3日付2面より)