北海道に広がれDIY
コロナ禍でリモートワークが広まり、自宅以外に快適な働き場所を求める人が増えた。シェアデザイン(本社・札幌)は、2013年からハンドメード作家らに工作機械と作業場を貸す会員制の「シェア工房」を札幌市内で運営している。創業支援やDIYを広める事業など新たな利用者を呼び込むための戦略を斉藤隆社長に聞いた。
―どんな工作機械があるのか。
熟練の技術がなくても使える工作機械にこだわっている。さまざまな素材に印刷できるUVプリンターと木材やアクリル板を切断するレーザーカッターが人気だ。使い方はスタッフが無料で教えている。アクセサリーやキーホルダーを簡単に作れるが、どちらの工作機械も高価のため個人では減価償却が難しい。
3Dプリンターは小型機のみ置いている。大型作品は専門業者の出力サービスを利用するのが主流だからだ。当施設で使い方を学んだ後、自分で5万円程度の家庭用を買い、作業場所を自宅に移す作家もいる。
―コワーキングスペースを併設する狙いは。
高価な工作機械を共有するだけでは決め手に欠け、撤退につながる。あえてここで働いてみたいと思うような特色が必要だ。
例えば、事業を始めたばかりの利用者向け交流イベントや創業支援に注力している。作品を通して共通の話題を見つければ、経営者同士でビジネス手法を一緒に学べる。入会から1年間は、利用者がこれから稼ぐための準備期間と捉え、当社が開くビジネスセミナーなどを無料で提供している。
スタッフの判断で利用者同士を引き合わせることもある。こうした〝おせっかい〟が新しい人脈やアイデアにつながっていて手応えを感じている。
―利用者の特徴を。
個人事業主や法人が9割、趣味目的が1割だ。大部分は30―40代だが大学生や50代のユーザーもいる。利用スタイルは仕事が終わった後の2時間や休日だけなど多様だ。
工作機械がそばにあれば、浮かんだアイデアを基にその場で試作してイメージのずれを回避しやすい。ハンドメード作家はコロナ禍で大型イベントが軒並み中止になり打撃を受けたが、退会は少数だった。
8月からはものづくりではなくリモートワーク目的の入会が増えた。会社から手当はないものの、自宅以外の仕事場を探している人は多そうだ。異業種が共存し、互いに興味を持てる環境づくりに努めたい。
―DIYを広めるため動画配信の事業化を目指すそうだが。
厳寒期に家で過ごすことが多い道民は、快適な自宅への関心が高いはずだ。退去や売却が前提となる住居のDIYならば、元の設備を壊さないことが望ましい。
そこで、元の状態に戻せるDIY方法を動画で紹介する準備を進めている。専門店が近くになくても、材料や工具は通信販売を利用すれば誰でも簡単に買える。視聴者のDIY挑戦のきっかけをつくることで、最終的に本格的な工作機械に興味を持ってもらいたい。
身近な大人たちがDIYを楽しんでいれば、子どもはその魅力に触れやすい。道民にDIY文化を根付かせて、ものづくりに携わる職業を目指す人の裾野を広げたい。
(聞き手・城 和泉)
斉藤隆(さいとう・たかし)1971年11月6日生まれ。94年に大学卒業後、ニトリに入社。13年にシェアデザインを設立し、シェア工房やコワーキングスペースを運営している。
(北海道建設新聞2020年11月11日付2面より)