深掘り

 地域経済の成長には、新たな技術シーズを生み出すだけではなく、その技術を発展させたビジネスの創出が欠かせません。〝勝ち〟にこだわる経営者らの発想やアイデアを紹介します。

深掘り 日本旅行北海道新規事業開発室渉外部長 永山茂氏

2020年02月28日 09時00分

永山茂渉外部長

道内客意識し難局打破

 新型コロナウイルス感染の世界的拡大が、本道観光業界に影を落としている。宿泊をはじめとする観光関連施設の予約キャンセルが相次ぐ中、各社はどう対処すべきか。これまで数々の観光商品をヒットさせてきた日本旅行北海道の永山茂新規事業開発室渉外部長に現状認識と見通しを聞いた。

 ―日本旅行北海道は全道の観光業者と取引がある。今どんな状況か。

 さっぽろ雪まつり期間までは持ちこたえていたが、その後日本国内でのウイルス感染拡大が明らかになり、ここ2週間の売り上げ減はどこも激しい。急展開のため今はぼうぜん自失といった状況だが、これからさまざまな対策を打ち出すことになるだろう。

 観光ビジネスは元来、政情不安、経済危機、自然災害などさまざまなリスクを想定している。感染症もその一つ。近年でもSARS(重症急性呼吸器症候群)、鳥インフルエンザなどの例があり、決して未経験の事態というわけではない。

 ―ことしの本道観光業界は壊滅的な打撃を受けるのでは。

 そうとは限らない。冷静な見方が必要で、感染症の流行はいつか収束する。あくまで仮定の話として言えば、もし流行が5月あたりまでに鎮まれば、それ以降で挽回して、結果的に去年を上回ることもあり得る。

 というのも北海道は例年、雪まつりが終わってから5月の連休明けまではもともと旅行客が少ない時期。五輪・パラリンピックのマラソンが予定通りに開かれれば7月から8月前半にかけて関係者や観客で満杯になる。これを避ける一般観光客が初夏や秋に分散して来てくれれば、トータルでは大きな入り込みになる。

 ―差し当たり今はどんな対策が考えられるか。

 このところ最も減っているのが訪日外国人観光客だ。その分、当面は国内、特に道内の個人客に動いてもらえる工夫を考えるべきではないか。団体バスツアーなどは知らない人との濃厚接触だと言われるかもしれないが、公共交通機関やレンタカーで移動する手段もある。

 道内観光はここ数年、過度に外国人客に期待する傾向があった。来道外国人が増えてきたとはいえ、宿泊市場に占める割合は約2割。一方で北海道は、地元民による宿泊の割合が東北などに比べてかなり低いという特徴がある。あらためて道内客を意識したマーケティングを検討すべきでは。

 ―個人旅行なら予約サイトで手配できる。旅行会社の出番はあるか。

 確かに予約サイトを使う人は増えた。だが、そうしたサイト運営業者が個々の観光施設と顔の見える関係を築いているわけではない。当社なら全道各地に「赤い風船会」という取引業者の集いがあり、定期的な情報交換をしている。

 各施設と意見を出し合って、キャンペーン商品をつくることも多い。当社は商品を決めたらすぐにパンフレットを作り、1週間程度で売り出せる機動力が強みだ。つい先日は、万世閣ホテルズの宿泊客に温泉まんじゅうをプレゼントする企画を始めた。実はこれはかつて感染症が流行したときに販促策としてつくった商品で、当時の経験を基にしている。

 観光業界はこれまでも多くの危機を乗り越えてきた。今は各自が経験と知恵をどう発揮するかが問われている。

(聞き手・吉村 慎司)

 永山茂(ながやま・しげる)1959年京都市出身。82年に日本旅行に入社して札幌支店に配属され、以来37年以上札幌在住。札幌支店長などを経て2011年に日本旅行北海道新規事業室長、17年、地方創生推進室長を兼務。19年から現職。

(北海道建設新聞2020年2月27日付2面より)


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