
浦田祥範社長
事業プラン具体化の相談歓迎
スタートアップ企業に投資し、成長に導くのがベンチャーキャピタル(VC)だ。北海道銀行などが出資する北海道ベンチャーキャピタル(HVC、本社・札幌)は、設立から20年を超える地域VCの代表格。近年のスタートアップ事情や、コロナショックが起業に与える影響について浦田祥範社長に聞いた。
―このところ本道には世間をにぎわすような若い企業が少ない。起業家が育っていないのでは。
ベンチャーの数が減ったわけではない。もともと北海道は人口当たりの上場企業数が東京や大阪に次いで多い。札幌証券取引所の存在もあるが、他と比べても起業マインドの強い地域といえる。
話題性は事業分野による部分が大きい。一時期はITベンチャーが多く、各社がサービスのPRに力を入れる例も目立った。だが近年の起業はITに限らずバイオや医療、農業など多様なジャンルに分散している。例えばライフサイエンス分野なら製品が世に出るまでに認証などで長期間を要し、宣伝を打つことも少ないため話題になりにくい。
―現在の投資先は。
18社ある。このうち数で最も多いのはバイオ、ライフサイエンスの企業だ。投資先で、株式を上場して「卒業」した最近の例としては通信サービスのファイバーゲートなどがある。
―建設業にもベンチャーは出てきているか。
残念ながら耳にしたことはない。だが、労働市場の高齢化や人手不足が解消されない中、建設業も今後さらに生産性を高めることが求められる。そのために新しいテクノロジーを応用する際、革新的な企業が出てくる可能性はあるのではないか。
―新型コロナウイルスの影響で業績が悪化している投資先はあるか。
一部だがそうした企業もある。当社は投資先とは一心同体。場合によってはスタッフがその企業のサポート役として資金管理などの直接的なお手伝いをすることもある。
―HVCは常に投資案件の検討・準備をしているはず。その作業はコロナで止まっていないか。
大きな影響は受けていない。投資を決める過程で、幅広い情報収集のために多くの関係者と面談するが、それが一時的にやりにくくなっている程度だ。投資そのものを中断することはない。
―起業したばかりのベンチャーも投資対象に入るか。
VCを大型資金調達が必要になって初めて接触する先だと思っている経営者もいるかもしれないが、事業プランを具体化する相談などはいつでも歓迎している。アイデアだけの段階でいきなり投資するのは難しいとしても、一緒に計画を練ったり、関係者とつないだりする手助けはできる。
―コロナショックが終わらない中、起業したい人は今どうすべきか。
今は数十年に一度あるかないかの事態で、これから外部環境がどう推移するか予測できない。だが感染症はいつか収まり、経済は必ず再開する。ただ、完全に以前と同じ姿に戻るのではなく、少し違う形になるだろう。産業構造が変わるとすれば、雇用の受け皿という観点から言ってもベンチャーの成長が必要だ。起業する人は社会の変化と新たな課題を分析して、しっかりしたビジネスプランを立てて挑戦してほしい。
(聞き手・吉村 慎司)
浦田祥範(うらた・よしのり)1961年1月幕別町生まれ。83年慶大卒、北海道銀行入行。北見支店長、経営企画部長、道銀地域総合研究所専務執行役員などを歴任し2018年に同行を退職。同7月、浦田コンサルティングオフィス開業。19年6月から現職。
(北海道建設新聞2020年5月14日付2面より)