「家の作りやうは夏を旨(むね)とすべし」は徒然草の一文ですが、衣食住を賄う家事は、その種類によって、旨とすべき季節が分かれます。
北海道では、秋の終わりから春のはじめまで気温が低いので、衣類を外に干すことができません。冬、洗濯物を外に干すと、布地の中の水分が凍結・膨張し繊維を傷めてしまいます。氷点下の外気にさらしたタオルを、ビュンビュン回して凍らせる実験は楽しいですが、実は、タオルは悲鳴をあげています。「洗濯は冬を旨とすべし」です。
私は仕事柄、お客さまから家事について、いろいろ質問されることがあります。中でも「皆さん、洗濯物はどこに干しているのでしょう?」はよく聞かれます。確かに、人さまの家の洗濯物を干す場所や干し方は分からないので、良いアイデアがあったら知りたくなります。
知人宅を訪ねても、シャツなどの下着類が掛かっているところは見かけません。積極的に披露したいものではないので、不意の来客に困らないよう、皆さんそれぞれに工夫しているようです。マンションなどの集合住宅は冬期間、家族全員の洗濯物を干すスペースの確保が難しく、私も解決策がなかなか見つかりません。
浴室の物干し用ポールの活用は一つの方法で、換気扇の存在もうれしい設備です。でも、お風呂に入る度に半乾きの洗濯物をリビングや寝室に移動させなければいけないので、残念ながら使いやすいとは言えません。
洗濯機を置いているユーティリティーは、洗面室を兼ねている場合が多く、物干し用のポールを設置すると、洗濯物が洗面化粧台の鏡に映り込んでしまいます。この景色は美しいと言い難く、顔を洗い、身支度をしている時、背後の洗濯物の存在は、かなりうっとうしいものです。
さて、ぬれた洗濯物を乾燥する方法として「お日さまにあてる」をイメージする方は多いと思いますが、日光による紫外線の影響で衣類の色あせが起きたり、素材によっては繊維を傷めてしまいます。
湿った衣類は乾燥した室内に干す、もしくは除湿して、できるだけ早く水分を除くのが良いとされています。もともと北海道は湿度が低い地域ですから、換気扇を使うと、湿った空気が強制的に屋外に排出され、衣類は比較的早く乾きます。「風通しの良い日陰」が、ぬれた洗濯物にとって安心して過ごせる、理想の空間です。
ところで、着終えた衣類は、①洗濯する②干す③畳む④しまう―のプロセスを経て、再び着ることができます。しまう場所は寝室のクローゼットや脱衣室のチェストなどさまざまですが、洗濯から干す、畳むまでを1カ所で行うと作業効率は抜群に良くなります。
洗濯室には洗濯機や換気扇のほか、洗濯用流しと物干し用ポール、畳む作業用の台を置くことを勧めます。さらに電動昇降物干しがあるとうれしいですね。脚立に上って洗濯物を干すのは足元が不安定ですし、年齢とともに上り下りがきつくなります。洗濯物が天井近くに移動することで視界が開け、下を通りやすくなるメリットもあります。予算との相談ではありますが…。
しかしながら、集合住宅はスペースに限りがあるので、洗濯室を含めたリフォーム計画は、なかなか思うようになりません。冬場、雪でぬれたコートや帽子、手袋を乾かせる便利なスペースは欲しいところです。インテリアコーディネーターとしては、洗濯室が北海道の住まいの標準仕様になることを期待しています。
(北海道建設新聞2021年2月12日付3面より)