深掘り

 地域経済の成長には、新たな技術シーズを生み出すだけではなく、その技術を発展させたビジネスの創出が欠かせません。〝勝ち〟にこだわる経営者らの発想やアイデアを紹介します。

深掘り 道南いさりび鉄道 川越英雄社長

2021年04月05日 10時00分

川越英雄社長

新幹線延伸は選択肢生む

 旧JR江差線の五稜郭―木古内間を引き継いだ「道南いさりび鉄道」が3月、開業5周年を迎えた。接続する北海道新幹線の利用者数が低迷する中、住民の足としての生活路線、また道外にも知られる観光路線として今までどう歩んだのか。運営主体の第三セクター、道南いさりび鉄道の川越英雄社長(64)に聞いた。

 ―開業5年。最も良かったことは何か。

 事故なく運行できていることだ。鉄道事業者として安全は全てに勝る。われわれの力だけでなく利用客のマナー、踏切を渡る地域住民の協力のおかげで、感謝に堪えない。

 ―北海道新幹線と同じく、いさ鉄も乗客減が続いているようだ。

 開業の年は新幹線の乗客数がすごくてわれわれも大きく影響を受けたが、2年目以降は落ち着き、利用客は減っている。当社は新幹線と違って大半が通勤通学客で、乗客減は観光よりも沿線地域の人口減と連動する。かなり以前、函館から現・北斗市内に家を建てて移り住む若い人の流れがあって、今はその子ども世代が通学に利用してくれている。絶対数は減っていくがペースは緩やかだ。

 ―観光路線としての目玉は食事も出す「ながまれ海峡号」で、沿線住民も協力しているとか。

 高校生をはじめ地元の人が手を振ったり、有志による「いさ鉄応援隊」が沿線に旗やのぼりを立てたりして旅行客の気分を盛り上げてくれる。上磯駅では駅前商店会の人がホームで立ち売りをし、茂辺地駅では木古内の地域おこし協力隊がバーベキューを催す。北斗市には、市で所有する清川口駅の外装を海峡号と同じデザインにしてもらえた。

 ―コロナ禍が長引く中、利用者をどう増やす。

 道南在住でまだいさ鉄を使ったことがない潜在顧客に魅力をPRしたい。函館―木古内は1時間ほどで、茂辺地から渡島当別辺りには地元にもあまり知られていない景色がある。いつも車で移動している人にも、鉄道は道路よりも視点が高くて普段と違う眺めを楽しめることを知らせたい。まずは乗ってもらうため、5周年記念の1日フリー切符を700円で売り出したところだ。

 道外客に対しては、ちょうど4月からJR東日本で「東北デスティネーションキャンペーン」が始まる。これに合わせて当社やJR北海道、函館バスが一体となったパスポート商品を設定して、一緒に首都圏にPRしてもらうことになっている。

 ―いさ鉄は事実上赤字を前提としているが、損失を小さくする努力は。

 駅の売店でのグッズ販売のほか、保有不動産を通信会社に賃貸する、また有料駐車場として運営するといった事業も展開している。ただ、収益を上げるために全く新しい事業に乗り出すのはリスクが高い。補助金を活用する三セクは一般的な企業とは少し性質が違い、今あるリソースでやれることに取り組む。

 ―新幹線は10年後札幌に延びる予定。客を奪われる心配はないか。

 心配より期待の方が大きい。札幌と函館が1時間強でつながるのは、今までなかった選択肢ができるということ。今も飛行機で新千歳に降りてバスで函館に入る観光客はいる。リゾートとして注目されているニセコ地区も含め、道央を訪れた人が道南に足を運びやすくなるだろう。道南では高規格道路が新たに開通し、函館は岸壁整備で大型船の往来が増えた。新幹線札幌延伸が加われば、交流人口増加を望めるのではないか。

(聞き手・吉村 慎司)

 川越英雄(かわごえ・ひでお)1957年3月、函館市生まれ。80年函館市入庁。2019年3月、企業局長を最後に退庁し、同5月道南いさりび鉄道入社。20年6月から現職。

(北海道建設新聞2021年4月2日付2面より)


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