住む人の暮らしを豊かに
道内初進出となる「無印良品の家」が5日、上士幌町で着工した。2004年に発売して以来、寒冷地対応の課題から青森県を北限に全国で約3000棟が建てられている。良品計画(本社・東京)の住宅部門であるMUJI HOUSE(同)の川内浩司取締役に道内展開への戦略や目標を聞いた。
―道内で建てる無印良品の家とは。
販売中の4種のうち最も断熱性能が高い「窓の家」から投入する。本州向けの仕様では道内の厳寒期に対応できないため、以前から付き合いがあった土屋ホームと開発を進めている。冷暖房効率の高い窓は、大きさと設置場所が自由で全て特注品。三角形の屋根は、積雪地域向けに角度を調整する。22年4月の供用開始後も道民に喜ばれる家を模索し、いずれは道内全域に全種を供給したい。
―他に建設候補地はあったのか。
建設地は、人口規模や新規の住宅着工数を問わず幅広く検討していた。長らく道内進出は目標に掲げていたため、立地面で社内の反対はなかった。
現在は本州を中心に28社と組み、道内を除く全国で年間約300棟を建てている。道内は、初進出のニュースが流れる前から展開を希望する声がある。上士幌町でニーズを把握した上で、販売拠点やパートナーとなる工務店を検討する。
―上士幌町に興味を持った理由を。
2棟構成の企業滞在型交流施設の計画が目に留まった。当社は公共空間のデザインや別荘建設に携わった実績がある。上士幌町は人口が増えている珍しい地域で、シェアオフィスなどワーケーション施設整備に積極的。一昔前までテレワークはクリエーティブ職の働き方というイメージが強かったが、コロナ禍の影響から幅広い職種で採用されている。
建設地に隣接する「道の駅かみしほろ」は国道241号沿いで人が集まる場所。建物は旅行や帰省で立ち寄った人の目に触れやすい。全国から訪れた利用者が家だけでなく、無印良品の家具や食器に囲まれた生活を体験できる施設になるだろう。
―地域への波及効果をどう見るか。
町が目指す関係人口の創出につながるはずだ。当社のメルマガは、100万人以上が登録している。道内進出に当たり、今後も施設の情報発信を計画している。読者が町自体に興味を持つきっかけにもなるだろう。
また、地域との関わり方は、大型ショッピングセンター出店だけにとどまらない。例えば、地方の生活圏を活性化する取り組みとして、移動販売バスの運行を試行している。近くに店舗がなくても生活用品などを手に取りながら購入できれば、人が集まって地方の活気を取り戻せる。
―今後の目標について。
一度にたくさん建てることが目標ではない。住宅は完成してからも息の長い付き合いになる。知名度を上げるための大々的な広告は打たず、主に口コミで良さを広めてきた。根底には、住む人の暮らしを豊かにするという考えがある。道内でも地元密着でアフターケアが手厚い工務店との丁寧な家づくりを進めたい。
(聞き手・城 和泉)
川内浩司(かわち・こうじ)早大理工学部建築学科卒。大手総合不動産会社を経て、2009年にMUJI HOUSE入社。無印良品の家の開発などに携わる。16年から現職。