
福本見佳執行役員
分譲MS需要は「底堅い」
首都圏を中心に分譲・賃貸マンションを展開する長谷工不動産(本社・東京)は、2020年に初進出を果たした札幌など全国地方都市への展開を強めている。分譲マンションのニーズは全国的に底堅いものの、土地代や建築費高騰といった逆風が吹く。福本見佳執行役員に今後の展開や取り巻く環境を聞いた。
―地方都市への展開の狙いは。
長谷工グループは、首都圏、近畿、名古屋エリアでのマンション開発を進めてきたが、少子高齢化に伴い、業界全体で供給戸数先細りに対する懸念がある。
こうした状況を受け、グループが掲げる方針の下、開発余地やニーズの掘り起こしが見込める北海道含む九州、沖縄といった地方都市での展開を進めている。先行する九州や沖縄は、計画分も含めて21棟約1300戸の開発があり、軌道に乗ってきた。
広島、沖縄両県では賃貸マンション開発に着手しているが、札幌市や九州など土地が高く家賃相場が安いエリアでの開発は難しい。このような地域では、継続的に分譲マンションを展開する方針だ。
―札幌進出から1年が経過したが、どのような状況か。
積水化学工業との札幌平岸リードタウン開発のほか、単独で3棟の新築計画を立ち上げているが、道内での知名度はまだまだ足りていない。秋から当社のブランド「ブランシエラ」のプロモーションを強める。
札幌市内で駅徒歩圏の土地を探しているが、他の本州デベロッパーの進出も多く、取得が容易ではない。土地価格の高騰も続き、分譲価格が市内相場を上回ってしまう恐れがある。新規開発の断念が増える可能性も考えられる。
しかし、需要は底堅いとみている。高齢者は除雪が難しいほか、多発する自然災害により安全を求めて分譲マンション購入を検討するケースが多い。ニーズやコンパクトシティの方針も相まって、札幌市以外の道内都市にもチャンスはある。
―業界を取り巻く環境と自社の戦略は。
新型コロナウイルスの影響で、自宅の広さを求める動きは根強い。首都圏では、比較的価格が安い郊外物件も人気上昇中だ。ただ、東京五輪による建設ラッシュが終わっても建築コストは下がらず、分譲価格は高騰している。
業界全体として、戸当たりの面積を縮小して対応するケースが多いが、ファミリー層がメインターゲットなだけにこれ以上の縮小は難しい。今後は、高齢者や単身者向けのコンパクト物件の供給が増加することが考えられる。
当社は、グループ内で管理会社を持っている。「売って終わり」ではないことは1つの強みだ。物件仕様についても、管理会社を通してユーザーの声を集めている。これを設計に反映させることで、選ばれるマンションづくりを目指す。
―将来的な取り組みについて。
グループ内に専門部署を設けるなど、老朽化した分譲マンション再生もメニューの1つ。ただし、ハードルは依然として高い。再生事業を促すには、入居者の権利関係や容積率など、行政側のさらなる緩和が必要と感じる。
また、環境認証などが求められる時代になりつつあるが、消費者のZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)に対する認知度は低いため、上乗せコストを分譲価格に転嫁しにくい状況だ。
しかし、企業として新しい時代に備える必要があることから、今から採用できる設備は積極的に取り入れるなど対応を進めたい。
(聞き手・宮崎 嵩大)
福本見佳(ふくもと・みか)1964年、香川県生まれ。大学卒業後、87年4月に長谷工不動産(現・長谷工不動産とは別 会社)入社。外部出向や長谷工コーポレーションでのデベロッパー業務を経て、2018年4月から現職。
(北海道建設新聞2021年9月14日付2面より)