深掘り

 地域経済の成長には、新たな技術シーズを生み出すだけではなく、その技術を発展させたビジネスの創出が欠かせません。〝勝ち〟にこだわる経営者らの発想やアイデアを紹介します。

深掘り 武部建設 武部豊樹社長

2021年10月15日 13時00分

武部豊樹社長

家じゃなくても独自建築

 人口減少が続き、ヒト・モノ・カネが札幌圏に集まる流れが止まらない道内で、地方の工務店は曲がり角に来ている。そんな中で空知管内を本拠に、大工の育成活動や北方型住宅の研究など、独自路線で存在感を発揮し続けているのが武部建設(本社・岩見沢)だ。道内工務店でつくる北海道ビルダーズ協会代表理事も務める武部豊樹社長(70)に、業界や自社の現状・考え方を尋ねた。

 

 ―建築業界は人手不足が言われて久しい。貴社は1990年代から大工育成に取り組むが、状況は改善されてきたか。

 工務店の仲間と一緒に大工を育てているが、業界全体で見れば志望する若者が減る状況は変わらない。やはり待遇の問題が大きい。元請けはもちろん下請けも、大半は大工を正規雇用せず、業務委託・請負を続けている。

 社員だと社会保険など会社側の負担が増えるからで、結果として大工の社員化が進んでいない。保険会社によるアンケートでは、小学生ぐらいだと大工が将来就きたい職業の上位に来る。だが年齢が上がるとランキング外へ消えてしまう。

 ―建築技術を追求する一環で、古民家の再生を手掛けている。

 北海道は本州からの入植で開拓されたため、さまざまな地方の特長を持つ古民家が散在する。伝統的構法の家は解体して再生することで100年以上残せる。歴史的価値のある建物を残す意義と同時に、大工にすれば当時の技術を学べる生きた教材で、再生は大学で学ぶぐらいの価値がある。

 ―取り組みが評判を呼び、空知以外からの受注も多いようだ。

 ありがたいが、全道展開が目標ではない。話題性のある施設を手掛けると会社のPRにはなるが、施工のために人や資材を動かす経費が大きくなり、移動の時間もかかる分、利益率は下がる。

 ―しかし空知を含め地方の人口減は激しく、中長期では住宅着工も減る。どう生き残るのか。

 新築が減るのは受け入れるしかない。だが既存の家の改修ニーズはある。それに近年は公共建築をはじめとして非住宅建築が木造化する動きがあり、実際当社でも保育所や幼稚園などの施工実績も増えてきた。他にも飲食店、商業施設、ワイナリーなどそれぞれこだわった仕事をさせてもらっている。例えば栗山に建てたレストランは道産カラマツと、古民家から出た古材を構造材に使っている。

 ―まきストーブのある家を提唱している。国の省エネ評価基準にまきストーブを入れるよう主張しているそうだが。

 まきは燃えるときに二酸化炭素を出すが、山では吸収する再生可能なカーボンニュートラル燃料だ。だがストーブ製造各社が中小規模のため環境データをそろえる余力がなく、まきストーブは省エネ基準から漏れている。温度制御の難しさ、導入費の高さといった課題もあるが、一度取り付ければ50年たっても使える。多くのメリットがあると訴えたい。

 ―2018年、道内の建築設計事務所と工務店が協業する南幌町・道のプロジェクト「みどり野きた住まいるヴィレッジ」の第1期開発に参加した。

 アトリエmomoとの協業で、設計と施工が上下関係ではなく水平の関係で仕事をする経験をさせてもらった。当社もずっと住宅・建物の図面を引いてきたが、設計事務所の発想や仕事を学べたのは大きな収穫だ。

 われわれ施工者は、昔の価値観では設計者に監督される立場のように考えられてきた。だが本来、施工と設計は水平・対等な関係でともに客に向き合うべきだ。そうあるためには、相手の領域について互いに理解していることが重要だ。当社は施工ができ、なおかつ設計についても精通した工務店になれると考えている。さらに努力を続けたい。

(聞き手・吉村 慎司)

 武部豊樹(たけべ・とよき)1950年、三笠市生まれ。76年に家業の武部建設に入り、83年3代目社長に就任。JBN・全国工務店協会理事、北海道ビルダーズ協会代表理事、日本民家再生協会理事などを兼任する。


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