深掘り

 地域経済の成長には、新たな技術シーズを生み出すだけではなく、その技術を発展させたビジネスの創出が欠かせません。〝勝ち〟にこだわる経営者らの発想やアイデアを紹介します。

深掘り JAPAN WineGrowers 麿直之社長

2022年05月23日 12時00分

麿直之社長

国内外の経験共有し支援

 北大と道による「北海道ワインバレー」構想やワイナリーの増加など、道内ワイン産業は近年盛り上がりを見せている。4月に設立した札幌市内のJAPAN WineGrowers(ジャパンワイングロワーズ)は、醸造技術やワイナリー立ち上げのコンサルティングを担う会社だ。国内外で培った経験や知識を生かした技術支援とともに自社でのワイン造りを計画する麿直之社長に展望を聞いた。

 ―どんな事業を始めるのか。

 主な事業はブドウ栽培やワイン醸造のコンサルティング、ワイナリー立ち上げ支援、自社ワイン造りの3つだ。それ以外にもセミナー講師や研修など幅広く取り組みたい。

 国内でワイン業界のコンサルタントは例が少ない。今まで培った経験や知識を全て共有し、新規参入者も短期間で自分と同じレベルに成長できるようにしたい。

 既に1カ所、余市でのワイナリー立ち上げについて年間の支援契約を結んだ。他にも複数の問い合わせが来ている。

 ―ワイン造りの経歴は。

 元々は他業種で働いていたが、知人の誘いで転職を決めて2014年10月から仁木町でワイナリー立ち上げに参画した。初めてワインを造ったのはその翌年。経験や技術の全くない状態から仁木町で毎秋に収穫と醸造をし、春は南半球のワイナリーで働いてワイン造りを学んだ。2年かけてカリフォルニア大のオンライン課程を受講したことも役立っている。

 この結果、7年半で12回もの収穫・醸造を経験できたことは大きい。20年には著名な国際コンクールで日本初となる欧州系赤品種の金賞を受賞できた。

 ―特に海外ではどんなことを学んだか。

 毎春に2カ月ほど、ニュージーランドやオーストラリア、南アフリカで働き、ワイン生産者の多様な考え方に刺激を受けた。

 日本を含めたどの国でも共通していたのは知識やノウハウを惜しみなく教えてくれる態度だ。これは「土地や気候、ブドウが違う限り同じワインは絶対に造れない」という認識の表れだったと思う。

 私も同じように、ビジネスを介して自分の知識を共有したい。このようなサポートは私自身、未経験での転職当時に必要としていたことだった。

 ―自社ワイン造りの見通しは。

 まだブドウ畑を所有していないため、道内農家からブドウを仕入れ、道内のワイナリーに設備を借りて造る予定だ。日本では例の少ない方法だが、海外では普通と言える。新規参入者のモデルになればうれしい。

 初年度の今年は定価3500円ほどのものを3000本造る目標だ。

 ―どんな思いで造っているか。

 土地のブドウのポテンシャルを100%発揮できるワインを造りたい。ワインの主体はブドウだ。一方、いつになれば自分の満足できるワインを造れるだろうかという気持ちもある。経験を積むうちに理想も変わる。死ぬ前に1回造れればいいと思っている。

 ―道内ワインの特徴を。

 冷涼地のため、ブドウ栽培では農薬散布が少なく、病気にやられにくいきれいな果実ができる。ワインは酸味が生き生きして、はっきりとした輪郭の味になる。ピノ・ノワールやケルナーなどの品種がよく育つ土地だ。

 ―日本のワイン業界の課題は。

 確立した教育機関や国家資格がないため、ある意味で簡単にワイン造りを始められる。特に道内は土地が安い。しかし、一定期間の教育を受けないで誰もが質の良いものを造れるかは疑問も残る。

 小規模経営で赤字のワイナリーもある。コンサルティングを通じて黒字化を助けたい。

(聞き手・高田 陸)

 麿直之(まろ・なおゆき)1984年3月31日生まれ、東京都育ちの38歳。人材紹介会社や外資系製薬会社を経て、仁木町でワイナリー立ち上げに参画。4月に起業して現職。2019年から仁木町議会議員も務めている。

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