北海道からIT事業推進
電子請求や電子決済を手掛けるウェルネット(本社・東京)は、札幌市中央区大通東10丁目に新社屋を建設した。創業の地である本道に拠点を移し、道内発のIT事業を推進する宮沢一洋社長に、移転の経緯やコロナ禍で勢いが増すIT産業の動向などを聞いた。
―東京から札幌に本社を移す狙いは。
道産子の優秀な人材を集めたいという考えで新社屋の投資を決めた。人材確保が難しい中、東京でエンジニアを集めようとするとグーグルが相手になってしまうのも理由の1つにある。
―JR札幌駅前、大通地区のオフィスではなく、なぜ自社ビルを。
「どこにいてもみんなと一緒に居られる」というコンセプトを持っていた。システム開発の生産性を高めるには対面でのコミュニケーションが必要で、それには1つのオフィスフロアの方が良い。一度は駅前や大通でも物件を探したが、当社の従業員規模に対応できる広いフロアが見つからなかった。賃料が高かったこともネックだったため、札幌中心部に近い場所に新社屋建設を決めた。
―コロナ禍の影響は事業にどのような変化をもたらしたのか。
JR、バスで利用できるスマートフォンアプリ「スマホ定期券」のニーズが一気に増加した。今までの定期は生徒や学生が窓口で購入する必要があったが、ウェブで申し込むことができるためスマホが定期券になる。購入のため長蛇の列ができない分、密を避けることにつながっている。さらに、無人駅があるような地域では、支払いや発券でわざわざ駅に立ち寄る必要もない。
もう1つは、イベント中止によるチケットの返金や大学から学生に対して送金するシステムの需要が高まっている。三井住友銀行と共同開発した「ネットDE受取サービス」は、受取人にURLを送って自分の口座番号を記入してもらう仕組みになっていて、瞬時に手続きが完了する。以前より着金が早いため利用者は多い。
―デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が求められる中、ビジネスにどうつなげるか。
システムの経費はとても高いことから、変動費化の動きが広まりつつある。固定費は売り上げが乏しいと赤字の原因になってしまう。今後は、フィンテックの時代になりつつあり、大規模なシステム投資が難しい地方銀行は厳しい立場になる。最近では、国が給与のデジタル払いの解禁を検討していることから、実現すれば「PayPay」などの電子マネー事業者は参入するだろう。
当社としては地銀のシステム部を担う立場として連携できれば良いと考えている。自費でシステムを開発・運用して、利用した分だけ手数料をもらう。銀行はシステムを変動費化した分、営業に専念できる。
―北海道でのIT産業の広まりをどう見る。
ITやフィンテックの推進は、都会ではなく地方こそ率先してやるべきだ。特に北海道は広い面積を有していて、ばらばらに人が住んでいる。人口密度が低い街でも誰もがユニバーサルサービスを受けられるようなプラットフォームを引き続き提供したい。
コロナ禍の影響で働き方を見直すIT企業は多く、東京から拠点を移す流れもある。札幌市をはじめとする行政は誘致活動に力を入れているようだが、そういう意味では当社をきっかけに北海道に来てくれればいい。
(聞き手・武山 勝宣)
宮沢一洋社長(みやざわ・かずひろ)1960年2月、長野県松本市生まれ。83年3月に明治大政治経済学部経済学科卒。東洋計器を経て、96年に一高たかはし(現いちたかガスワン)に入社し、子会社だったウェルネットの事業開発担当取締役に就任。2009年9月から現職。
(北海道建設新聞2021年8月20日付2面より)
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